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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編
448/1357

448 衣装替え


 リーナはアリシアとメイベルによって正しい解釈を教えられた後、別のドレスに着替えた。


 今夜はリーナをお披露目するのが目的。途中で別のドレスに着替えることになっていた。


 最初はダンスに適したようなドレスだったが、着替えたドレスは明らかにもう踊らないことを明示するような、床にたっぷりと裾をひきずるようなドレスだった。


 幸せのパリュールに合わせたスズランというテーマも、ジャスミンに変更された。


 パスカルから贈られたジャスミンのパリュールにつけかえ、髪を一つにまとめながら後緩やかなウェーブをつけて流し、ジャスミンの花の形をしたピンを散りばめるように飾り付けた。


「最初の支度も完璧だったけれど、この装いも完璧ね!」


 アリシアは自信満々。メイベルと侍女達も同じ気持ちだった。


「確認するわよ。リーナはもうダンスは踊らない。挨拶回りもしない。だから、仮面も被らない。上司だった第四王子殿下が特別にお声がけをしてくださるから、それに応える形で壇上に上がって控えるの。腰掛が用意されるから、座っていればいいわ。二十四時になったら、リーナだけ先に退出よ。いいわね?」


 夜に行われる催しには暗黙のルールがある。


 未成年や未婚の女性の参加は二十四時まで。


 退出の挨拶や馬車の手配、同行する家族の事情などによって遅くなることもあるが、メイン会場からは出る。


 でなければ深夜も遊び歩いていると思われやすくなり、評判が悪くなってしまう可能性があった。


「残り時間はあまりないから大丈夫だと思うわ。でも、仮面がないとうことは、誤魔化しようがないということでもあるの。注意してね?」

「はい」


 リーナはしっかりと頷いた。





「あまりにも素晴らし過ぎて、褒めるための言葉が見つからないよ!」


 身支度が終わったリーナを迎えに来たのはパスカルだった。


 ジャスミンをテーマにした装いのリーナは、パスカルが夢に描いた理想の妹を現実にしたようなものだった。


「正直、連れて行きたくない。誰にも見せたくないよ」

「いけません。今夜は披露の催しです。主役不在はありえません」


 アリシアは甘いパスカルの声を一刀両断するかのようだった。


 元王太子付き筆頭侍女らしいオーラを発する姿に、さすがのパスカルも敵わないというように小さなため息を漏らした。


「さすが元王太子付き筆頭侍女だ。容赦ないね。でも、妹を見せびらかしたい気持ちがあるのも確かだ」


 パスカルはエスコートをするために手を差し出した。


 だが、リーナはすぐに手を出せずにいた。


「リーナ?」

「お兄様、私……大丈夫でしょうか?」


 リーナは急に怖くなった。


 アリシアやメイベルの説明のおかげで、王族から特別な祝福と栄誉を与えられたことがわかったが、人々が違う解釈をしていないかが気になった。


「大丈夫だよ。僕を信じて」


 パスカルへの強い信頼が、リーナの気持ちを奮い立たせた。


「はい!」


 リーナが差し出した手を、パスカルはしっかりと受け止めた。





 会場に入る扉の前でパスカルは立ち止まった。


「深呼吸をしようか」


 リーナが深呼吸をすると、パスカルも深呼吸をした。


「お兄様も緊張されているのですか?」

「妹がデビューをする時にエスコートするのが夢だった。それが叶ったから嬉し過ぎてね。足が浮いているような気分だ」


 リーナは思わず下を見た。


 当たり前ではあるが、パスカルの足は浮いていない。


「大丈夫です。浮いていません」

「心の中でスキップ禁止令を出したところだよ。よし、行こう!」


 扉が開かれた。


 舞踏の間に入ると、ファンファーレが響き渡る。


「皆様、次代を担っていく若きレーベルオードでございます。どうぞ、盛大なる拍手をお願い申し上げます!」


 マーカスの言葉よりも早く、会場中から拍手が起こり、それがより大きなものへと変わった。


 リーナは驚いた。


 拍手の大きさだけでなく、招待客の笑顔に。


 先ほど退場した際の雰囲気と全然違った。


「……お兄様」

「一緒に挨拶の礼をしよう」


 リーナはパスカルと共に一礼した。


 しっかりと腰を落とし、感謝の気持ちとこれからのことをお願いする気持ちを込めて。


 盛大な拍手は鳴りやまず、それに呼応するような力強い音楽が鳴り響いた。


 ダンスは客に任せ、リーナはパスカルのエスコートで上座に向かった。


 えっ? 仮面がない?


 リーナはセイフリードやレイフィールが仮面を取り、素顔を晒していることに驚いた。


「二人を呼べ!」


 不機嫌そうなセイフリードは早速リーナとパスカルを呼んだ。


 恭しく頭を下げるリーナとパスカルを見て、セイフリードは息をついた。


「お前たちがなかなか戻らないせいでかなり暇だった」

「えっ! そこは友人同士の交流をするのに丁度いい時間だったと言ってくれない?」


 ルーシェがにこやかにそう言ったが、セイフリードは同意しなかった。


「随分と印象を変えた。美しく見えるということは、僕のジュースに酒が入っていたのかもしれないな」

「そのようなことはありえません。美しいからこそ、美しく見えるのだと思われます」


 セイフリードの冗談だとわかっていたが、パスカルはあえて真っ当に答えた。


「今夜の主役はリーナだ。このソファに座ることを特別に許す。一番端だ」


 リーナはパスカルを見た。


 予定では腰掛が用意され、そこに控えることになっていた。


 だが、セイフリードが示したのはということだった。しかし、セイフリードが示したのは自分と同じソファだった。


「僕がお仕えする方々はとても思慮深く、時に寛大なる配慮を与えてくださる。従えばいいよ」

「はい。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 リーナは言われた通りソファの端に座った。


 すると、セイフリードはわざと逆側、エゼルバードの方に寄った。


「羨ましいか?」


 セイフリードはエゼルバードを見て尋ねた。


「呆れます」


 エゼルバードは隣に座るフレデリックを見た。


「席替えをしましょう。位置を代わりなさい」

「……数十センチ近づいただけだろうが」


 フレデリックの口調は面倒だと言わんばかりだったが、それでもエゼルバードと席を交代した。


 エゼルバードは隣にいるレイフィールに話しかけた。


「少し話をしましょう」

「実はそのためだな?」


 エゼルバードとレイフィールが小声で話し出したため、フレデリックはつまらないとばかりに酒のグラスを傾けた。


「お話をしましょう」


 フェリックスもソファの端に寄り、リーナに話しかけて来た。


 もしかすると、弟と話しやすくするため?


 リーナはセイフリードの配慮を感じた。


「今夜はおめでとうございます。とても美しい姿に胸が高鳴ります。ただでさえこのような場に出席することができて嬉しいというのに、こんな近くに座れるなんて夢のようです。セイフリードに感謝しなくてはいけません」


 フェリックスが名前を言ったことにリーナは驚いた。


「あの、お名前は……」

「仮面を被っていません。正体は明らかです。先ほどから名前で呼び合っています。でないと、会話がしにくいのもあったので」

「そうでしたか」

「もっと気さくに話しかけて下さい。姉上」


 フェリックスの言葉にリーナはまたしても反応し、ルーシェの笑いを誘った。


「フィリーの姉君は真面目そうだからなあ」


 ルーシェはフェリックスのことをフィリーと呼んでいた。


さすがにミレニアスのインヴァネス大公子が来ていることを堂々と示すわけにはいかないため、フェリックスとは呼べなかった。


「前に会った時も綺麗だったけれど、今夜の方がずっと綺麗だね。ここにちゃんと場所があるってことだ」


 ルーシェの言葉を聞いたフェリックスはため息をつきたくなった。


 本当はミレニアスで一緒に暮らしかかったが、それはリーナの望みではない。


 姉上と一緒にいたいのに。


 フェリックスの想いは強いだけに抑えにくかったが、リーナがミレニアスに来ることではなく、自分がエルグラードへ留学することで解決するつもりだった。


「大切にしなければなりません。姉上のことも、エルグラードのことも」


 ミレニアスとエルグラードの関係は交渉と同じく停滞中。


 関係改善を早急に進めなければとフェリックスは思っていた。




 もうすぐ二十四時になるという頃、舞踏の間の扉が開いた。


 レーベルオード伯爵を先導役に、一旦退出した王太子と側近たちが戻ってきた。


 そのことに気付いた客たちは一瞬ざわついたが、ヘンデルがすぐに片手をあげてひらひらと揺らす。


 構うなという合図に、客たちは笑顔の仮面を被りなおした。


 クオンは自らの席、特別席で最も上位の場所にあるソファの中央に座った。


 リーナはクオンの姿を見て立ち上がり、すぐに深々と腰を下げた状態で控えていた。


「リーナは主役だ。ソファに座れ」


 本当にいいのだろうかと思いながらもリーナはソファに座った。


 すると、すぐにクオンはリーナのすぐ隣に位置を変えた。


「とても美しい。だが、そろそろ時間でもある。未婚の女性が催しに顔を出すのは二十四時までが望ましいだろう。最近は古くからの慣習を気に留めない者もいるが、私は感心しない。夜更かしするのは肌荒れの原因になると弟から聞いたことがある」


 クオンの言う弟とは第二王子のことだろうとリーナは思った。


「未成年の者も同じく、二十四時までとするのが望ましい。だが、男女が共に退出するのはよからぬ噂の元になりかねない。リーナは先に退出しろ。無礼にはならない」

「はい」


 リーナは立ち上がると、深々と一礼した。


 ノースランド公爵家で完璧に仕込まれた淑女の礼は美しく、とても自然だった。


 その姿を見た客たちは、リーナが礼儀作法の勉強をしっかりとしているようだと感じた。


「では、お言葉に従い、先に失礼させていただきます」

「待て。エスコート役を呼ぶ」


 クオンはそう言うと立ち上がった。


「パスカル」


 クオンはパスカルを呼んだ。


「お前の妹は立派に務めを果たした。ゆっくりと休ませてやれ」

「御意」


 パスカルはリーナの手を取ると、二人でもう一度揃って一礼した。


 壇上から降りた際にも特別席に向かって一礼、更に会場の客にも一礼をする。


 クオンが拍手をすると、すぐに会場中から拍手が起きた。


 リーナとパスカルは盛大な拍手に見送られながら、舞踏の間を退出した。


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