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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編
442/1357

442 ダンスの相手

「リーナ」


 セイフリードに名前を呼ばれたリーナは緊張した。


 今夜は仮面舞踏会のため、任意ではあるものの、三十歳以下の未婚の者は仮面を着用することになっている。


 リーナも条件にあてはまるため、白いレースで作られた仮面を被っていた。


 目元や鼻などの周辺を隠してはいるものの、透け感があるために完全に顔を隠しているともいえない。


 顔を披露するお披露目の催しだというのに、完全に顔を隠すような仮面をつけるのはおかしい。


 そこでお洒落な女性に人気を博しているレースの仮面をつけることになった。


「踊れるか?」

「はい」


 リーナの視線はセイフリードのすぐ側にいるクオンに向けられたが、クオンは何も言わない。


 未成年であるセイフリードの保護者として同伴しているようだった。


「次の曲の相手を務められるな?」

「はい」

「では、手を差し出せ」


 手を差し出す?


 リーナは困惑した。


 普通は男性が先にエスコートやリードをするという意思表示で手を差し出し、それを女性が受けるという形で手を出す。


 女性であるリーナが先に手を出すというのは、相手に手を取ってほしいという意志表示になる。


 ねだるような行動になってしまうため、相手の身分が高い場合は無礼になりかねない。


 それがリーナの教わった礼儀作法だった。


「でも、それでは」

「さっさと手を差し出せ!」


 言う通りにすればいいの?


 リーナは手を差し出した。


 ところが、セイフリードはすぐにその手を取ろうとはしなかった。


「社交界は賢い者が大勢いる。巧みな言葉で次のダンスに誘うような事を言うが、実際は代理の場合もある」


 いきなり解説が始まった。


「代理であることを悟られる前に手を出すよう伝え、本当に踊る者がその手を取る」


 次の瞬間、リーナの差し出した手が取られた。


「踊るために手を差し出している以上、手を取った相手と踊らなければならなくなる」


 リーナはゆっくりと顔を上げた。


 リーナの手を取ったのはクオンだった。


「勉強になっただろう。では、次の勉強だ。足を踏んだら怒りそうな僕ではなく、寛大で慈悲深い者のダンス相手を務めろ」


 セイフリードは珍しく口角を上げた。


「兄上は久しぶりに踊る。足を踏まれるのはお前かもしれないが、我慢しろ」


 ええーーーーーー!!!


 リーナは驚きに目と口を開けたあと、クオンと踊ることになった。





 三曲目が始まった。


 舞踏の間にいる者達の視線はリーナとクオンに集中した。


 デビューの時に王族と踊れるほど栄誉なことはない。


 しかも、王太子。


 誰もが羨む大栄誉をリーナは与えられた。


「音楽に合わせなくてもいい。私に合わせろ」


 クオンのリードは確かにゆっくりだった。そのため、リードに合わせると音楽に遅れていく。


リーナは言われた通りクオンのリードに合わせた。


 一、二、三……。一、二、三………。


 段々とリーナはクオンのペースがわかってきた。


 クオンは三拍子の後に休憩するように時間をじっくりかける。


 通常は連続の三拍子だけに、間が開く。


「なぜ、一つ一つを確かめるようにゆっくりと踊るかわかるか?」

「私が下手だからでしょうか?」

「違う。他の者と同じように踊るのはつまらないからだ」


 リーナは意外だと思った。


 クオンであればきっちりと音楽に合わせて踊りそうだった。


「私は王太子だ。踊りたいように踊ることができる」


 クオンが美しいダンスを踊る必要はなかった。


 なぜなら、王族が踊ることの方が重視される。


 普通の者のように音楽、ダンス、作法に合わせなくてもいいということが特権の一つでもあった。


「私にうまく合わせている。十分踊れるようだ」

「そんなことはないです。基本通りにしか踊れません」

「私も同じだ。基本以外は覚える必要がない。踊ることがほとんどない」


 執務ばかりで仕事中毒といわれる王太子らしい発言だとリーナは思った。


「この曲は長くない。そろそろ普通に踊ってみるか?」


 リーナはくすりと笑ってしまった。


「なんだかおかしな気持ちですが、普通に踊るのが普通なのに、今は違うみたいです」

「では、普通で特別なダンスにする。三拍子のあとにターンだ」


 ああ、それで間をとる練習を。


 クオンが普通に踊らなかった理由をリーナは理解した。


 連続の三拍子で踊ると、移動しながらターンをすることになる。


 だが、三拍子のあとにターンの時間を取れば、移動する必要はない。


 その場でターンをすればいいだけだった。


 フワリフワリと美しいドレスが軽やかに舞う。


 人々の視線はリーナとクオンの二人、そして、何もかも独占するかのような軽やかなターンを繰り返す美しく華やかな踊りに向けられていた。




 リーナとクオンが踊り終わると、盛大な拍手が起きた。


 これは連続するダンスが終了したことと、踊り終えた者への賛美とねぎらいの意味がある。


 クオンに促され、リーナは人々の拍手に応えるように深々と一礼した。


「素晴らしかった」

「ありがとうございます」


 人々の拍手をじっくりと堪能するかのように、クオンはその場を離れなかった。


 通常は踊り終わると、次に踊る者のために速やかに異動するのがマナーになる。


 クオン様と踊る時は普通じゃないというか、特別な作法になるのかも?


 リーナは少しずつ社交のダンスをしているが、それは通常かつ貴族のためのもの。


 王族であるクオンに対しては違う勉強が必要そうだとリーナは思った。


 クオンは他の者がダンス用の場所を離れたあとになって、リーナに手を差し出した。


 リーナがそれに応えようと手を出すと、クオンは迷うことなくリーナの手を強く引いた。


 突然のことに、リーナはバランスを崩してしまう。


「あ……」


 だが、すぐにクオンが支えるようにリーナを抱きしめた。


「申し訳ございません!」


 そう言ってリーナがクオンを見上げると、クオンの顔があっという間に近づいた。


 二人の唇が重なる。


 予想外の事態に、会場中の息が止まりになった。



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