430 手土産の内容
「私の支援なくして、エルグラードで悠々自適に活動できると思うのですか?」
「不良王太子だろう? 父親の都合など考えるわけがない」
「まあ、そうだな」
フレデリックは手土産として、ミレニアスにおける重要情報を用意していた。
「ミレニアスとエルグラードの関係が危惧されている事態は国民にも知られてしまっている。エルグラードの新聞を読む者が多いからな」
ミレニアスで発行された新聞はエルグラードの王太子たちが親善のために訪れ、日程通りに帰国したと報じた。
だが、エルグラードで発行された新聞では国境地帯の問題を取り上げ、ミレニアス側の協力も努力もなく、状況が一向に改善されないと指摘されていた。
エルグラードが誇る四人の王子全員がミレニアスに行くことは、今後王太子が内政だけでなく外交にも関わっていくことを示すことになり、兄弟が力を合わせていくことを国際的に知らしめることになった。
その意義は極めて大きいと評価される一方で、国境地帯に移動した国軍の多くが駐留したままでいることが注目され、二国間の関係が悪化、戦争になる可能性を危惧するような論評が目立った。
とはいえ、このような報道はエルグラード国民に対して不安でも何でもない。
エルグラードがミレニアスに戦争で負けるとは露ほどにも思わない。
外交で解決できないのであれば、圧倒的な軍事力でさっさと解決してほしい。戦争になることで特需がエルグラード全体に発生するかもしれないと期待するエルグラード国民が多いことを示すことにもなった。
その影響で終始エルグラードの外交使節団に対して強気だったミレニアス王やその取り巻きは、武力行使及びエルグラードに支配される未来をより現実的に考え始めたことをフレデリックは説明した。
「ろくな案が出ないのはわかりきっている。この機会に乗じて、インヴァネス大公は自らの派閥をより強化しようとするだろう」
インヴァネス大公はミレニアス王と協力関係にあったせいで、自らの派閥を強くするような行動を積極的にすることはなく、中立派を取り込もうとさえしていなかった。
だが、リーナの件でミレニアス王やアルヴァレス大公と意見が合わず、その結果を覆すだけの力がないことを実感。
今後は二人の兄に対抗するための力を持つために動くことを決意した。
「フェリックスも言っていたが、インヴァネス大公は拠点を領地に移す。周辺地域の貴族たちも同調し、中央を去って自分の領地に向かうだろう。その結果、インヴァネス大公はミレニアス王の干渉が及ばない地方で勢力を伸ばせる」
親エルグラード派のインヴァネス大公の力が強まるのは、エルグラードにとって歓迎できることであり、それが国境地帯の問題を解決することにつながればより嬉しいことになる。
「ミレニアス王との交渉がうまくいかなかったせいで、クルヴェリオン王太子は苛ついているだろう。だが、短慮はしないでほしい。エルグラードが武力行使すれば、領地の場所的にもインヴァネス大公が対応しなければならない。味方である者と敵対し、力を削ぎ合うことになってしまう」
「ミレニアス王はすぐに外交的手段を取りそうですか?」
「エルグラードへの提案はした。表向きには、その返事を待つだろう。下手なことを申し出て、エルグラードの怒りに油を注ぎたくない」
「あえて後手に回るのか」
「これ以上の愚行を重ねれば、戦争へ向かって走るようなものですからね」
レイフィールもエゼルバードも、ミレニアスらしいと思った。
「丁度良いではありませんか。こちらも忙しいのでね」
「そうだな」
頷き合う二人を見て、フレデリックは眉をひそめた。
「エルグラードの情報を聞きたい。ミレニアス王には伝えないことを約束する」
「私からは言えません。権限も許可もないのでね」
エゼルバードはさらりと受け流した。
「レイフィールも同じでしょう。兄上の許可がなければ無理では?」
「その通りだ」
「帰国した時、インヴァネス大公から情報を寄越せと言われる。手土産がほしい」
「リーナのお披露目は無事終わったと伝えればいいではありませんか」
「そうだ。エルグラードで元気にしている。それが何よりの土産話になるだろう」
「フェリックスと同じ話になるのは困る。俺は保護者だ。未成年と同じ情報だけでは能力を疑われてしまうではないか」
「能力? 今更こだわるのですか?」
「不良のくせに。しかも、自らそう思われることを望んだはずだろう?」
フレデリックは言い返しにくいと感じるしかなかった。





