425 前日の晩餐会
レーベルオード伯爵とパスカルの帰宅が遅くなることがわかっていたため、リーナ主催の晩さん会が開かれた。
デイジーには子供用の食事を用意する予定だったが、両親と同じものをほしがるということで、量を少なくしたものが提供された。
「デイジー、しっかりカミカミしようね」
ジェフリーは甲斐甲斐しくデイジーの面倒を見ていた。
招待されているのはジェフリー、アリシア、デイジーの三人だけで、世話をするための同行者がいない。
ジェフリーが愛妻家で子煩悩であることは知られているが、デイジーの世話を一人でこなせるということまでは知られていなかった。
「美味しい?」
「おいしー!」
デイジーはご機嫌で料理を食べていた。
「お口に合うようで良かったです」
「本当に美味しい証拠だわ。デイジーはグルメなのよ。少しでも美味しくないと思うと食べてくれないの」
「必ず味見をしてから食べているわね」
メイベルは食事をしながらデイジーの様子を観察していた。
「そうなの。変わった食材が出ると、かなり警戒してしまうのよ」
リーナはアリシアとメイベルの会話を聞きながら、デイジーとその面倒を見るジェフリーの様子もしっかりと確認していた。
デザートになると、アイスクリームを見たデイジーが騒ぎ出した。
「キャー! キャー!」
「デイジー、静かにしなさい」
「デイジー、お口を閉じないとだよ」
「デイジーはアイスクリームが嫌いなの?」
メイベルが尋ねると、アリシアは苦笑した。
「逆よ。大好きだから興奮してしまうの」
デイジーはアイスクリームが目の前に置かれると、すぐにスプーンを掴んで食べ出した。
「ずいぶん食べているわ。ジェフリー、気を付けてね」
幼い子供は自分で適切な食事量が判断できない。
好きなものや美味しいもののせいで食べ過ぎてしまい、あとから具合悪くなってしまうこともあるため、注意をしなければならなかった。
「任せてくれればいいよ」
ジェフリーはデイジーがアイスクリームに夢中になっている間に、自分のデザートをすぐに食べ終えた。
伝令部は緊急や突然仕事が入ることが多いため、ジェフリーは食べるのが早い。
デイジーの面倒を見ながらでも、食事をしっかり取ることができていた。
「ジェフリーはすごいわね。これほどしっかりと面倒を見ているとは思わなかったわ」
メイベルは感心したように言った。
「いつも食事の時はジェフリーが面倒を見るの?」
「夕食はね。朝と昼は世話係が見るわ」
アリシアが答えた。
「出勤時間があるから、食べ終わるまで世話をできないのよ。だから、最初から世話係に任せているわ」
「だとしても、かなり助かるわね。男性で子どもの面倒を見てくれる者はほとんどいないでしょうから」
「アリシアのおかげで子どもの世話をする技能を身につけることができた。まだまだ訓練中だけどね」
ジェフリーがにっこりと微笑んだ。
「夫にも見習わせたいわ。でも、屋敷どころか王都にもいないから」
「エンゲルカーム卿がミレニアスに留まるなんて思わなかったわ。駐在大使が対応すべきではないの?」
「私もそう思ったけれど、ミレニアスの駐在大使はお飾りなのよ。外務大臣が自分の権力を強めるための人事をしているせいでね」
「ミレニアス問題が片付かないのは外務省の責任だよ」
ジェフリーも会話に参加した。
「前レーベルオード伯爵が存命なら、国境付近の問題はこれほど悪くならなかった」
「そうね」
「間違いないわ」
アリシアとメイベルは同意した。
「レーベルオード伯爵を外務大臣に抜擢したらどうかという声もあるみたいだけど、内務省にいるからね。父親と比べられてしまうし、過剰な期待をかけられてしまうのは損だ。まあ、内務省がレーベルオード伯爵を手放すわけがないけれどね」
「それはジェフリーの意見? それとも伝令部?」
メイベルが尋ねると、ジェフリーはニヤリとした。
「ただの噂かな」
ジェフリーの所属する伝令部は王宮中に出入りしている。
仕事は情報の伝達及び荷物の運搬だが、重要な情報をあちこちで入手しやすい立場でもあった。
「最も噂になっているのは、明日のことだけどね」
「いよいよね」
「そうね」
レーベルオード伯爵家の養女のお披露目。
しかも、仮面舞踏会。
王宮で開かれる国王主催の仮面舞踏会と日程がかぶってしまったことも含め、貴族たちが話題にしないわけがなかった。
「ここだけの話だけど、どうして仮面舞踏会なのかと思ってしまったわ」
アリシアは仮面舞踏会になった理由を知りつつも、納得できなかった。
「せっかくの晴れ舞台なのに仮面をつけるなんて!」
「同感よ。だけど、深い事情があるのはわかっているしね」
アリシアとメイベルは同時にため息をついた。
「第四王子の視察もあるしね」
「そうね」
アリシアとメイベルの視線がリーナへ向けられた。
「個人的な助言よ。第四王子とはあまり親しくしない方がいいわ」
「適度に距離を置いた方がいいわね」
リーナは思わぬ助言に驚いた。





