423 客間チェック
宿泊する部屋に案内されると、部屋中をアリシアは確認した。
それは幼児の娘を連れているからで、娘にとって安全ではないものを片付け、問題があれば解決を目指したいからだった。
「デイジー、大きなベッドがあるよ!」
ジェフリーからの要望で家族全員が同じ部屋、ベッドは三人でも寝ることができる大きなサイズにしてほしいことが伝えられていた。
「でも、バスタブは狭いな」
「申し訳ありません。通常のものよりも大きめのサイズなのですが、これよりも大きいサイズとなると浴室を拡張しなければならないので無理でした」
「ベッドはともかく、バスタブのリクエストは図々しいわよ」
アリシアはジェフリーを睨んだ。
「リーナ、気にしないでね。ジェフリーはありえないほど甘やかされて育っているのよ。デイジーにも甘すぎるし、不安で仕方がないわ!」
「厳しくすればいいとは限らない。学校に入る年齢までは甘くたっていいじゃないか!」
「今の内から少しずつ教えていかないと、王立学校に入れないわよ?」
「入れるよ。無理なら無理で他の学校に入れればいいだけだ」
視線をぶつけ合う夫婦の間にいたデイジーの視線は父親のポケットに注がれていた。
「パパ! お菓子!」
「まだあるかな? ポケットに魔法をかけてみよう。クッキー出てこい!」
ジェフリーがそう言ってポケットからクッキーを取り出すと、デイジーは喜んだ。
「お菓子!」
「いい子にしていたら、チョコレートが出る魔法をかけるからね」
その様子を見たリーナはすっかり感心していた。
「ウェズロー子爵は育児に参加されていると聞いていましたが、凄腕のようです」
「凄腕か。嬉しいなあ」
アリシアは居間の方を確認すると、戻って来た。
「特に問題はなさそうだわ。デイジーが壊してしまいそうなものはないし」
アリシアはデイジーが触って壊しそうなものは飾らないように伝えていた。
「広めの部屋なのは嬉しいけれど、遊べるものがなさそうだわ。レーベルオード伯爵家には遊具やおもちゃのようなものはあるのかしら? なければないでいいのだけど、借りることができそうなら借りたいわ」
「遊戯室の方にブランコと乗馬の練習をするための仕掛け馬があります。幼児用ではないので大人が付き添わないとですが、よければ使ってください」
「確認するわ」
遊戯室にある黄金色のブランコを見たデイジーは大はしゃぎだった。
「ブランコ!」
「すごく立派だね」
「そうね。相当な品だわ」
ジェフリーとアリシアも、予想以上にすごいブランコが用意されていることに驚いた。
「パスカルが子どもの頃に愛用していたものとか?」
「いいえ。養女祝いの品としていただいたのです」
しばしの沈黙。
「養女祝い?」
「誰から贈られたの?」
「ブランコはローワガルン大公世子のハルヴァー様からで、仕掛け馬はハルヴァー様の弟のルーシェ様です」
ローワガルン大公家の兄弟からだとわかり、ジェフリーとアリシアはもう一度驚いた。
「ローワガルンからか。さすがレーベルオードだなあ」
「そうね。特別な品であるのは間違いないわ」
ブランコはともかく、どうして仕掛け馬を?
兄弟揃って遊具にするなんて……。
ジェフリーとアリシアにとっては、謎でしかなかった。





