411 勉強あれこれ
食後のお茶が出てくると、リーナは頃合いだと思った。
「お兄様、食事のあとで報告書を見てくれませんか? お父様に提出するために不備がないか確認してほしいですし、いくつか相談があります」
「わかっているよ。じゃあ、行こうか」
「待て」
席を立ったパスカルとリーナは呼び止められた。
「リーナに追加で仕事を任せる」
パスカルの表情が険しくなった。
「父上、リーナに仕事を任せ過ぎないでください。負担になってしまいます」
「視察のついでにできることだ。これから西館や東館も見て回る。閉鎖や取り壊しについて意見を聞きたい」
「なるほど。リーナがどう思うかを参考にされたいわけですね」
「わかりました。視察する時に留意しておきます」
「じゃあ、行こうか」
パスカルはリーナに手を差し出した。
「お兄様、ずっと気になっていたのですが、エスコートは必要なのでしょうか?」
侍女長のアデリアに確認したところ、貴族において男性が女性をエスコートするのはよくあることだが、屋敷内において常にすることではないようだった。
「リーナは男性にエスコートされた経験が少ない。だから、僕が屋敷内でもエスコートしている。一緒に歩く勉強だよ」
「勉強だったのですね!」
「エスコートの仕方については基本がある。でも、相手や状況によって違うから、自然に対応できるよう経験を積まないとね」
妹と一緒にいることを実感したいだけではないのか?
父親は息子の説明を詭弁だと感じた。
すると、
「では、エスコートを断る時にどうすればいいかも教えてください!」
より多くのことを勉強していきたいとリーナは思った。
「……そうだね。そういうことも勉強しないとだね」
パスカルは微笑んだが、不意をつかれたせいでぎこちなかった。
「あとで教えるよ。でも、僕のエスコートは断らなくていいからね」
パスカルは自分からリーナの手を取り、エスコートして食堂を出て行った。
食堂に残った父親は笑いたい気分だったが、威厳を保つために抑え込むよう努めた。





