410 立派な娘
夕食の時間はレーベルオード伯爵家の三人が揃った。
ウォータール・ハウスに来た当初は料理や無難な話題ばかりだったが、現在はリーナがどのように過ごしたかということが話題の中心になっていた。
「屋敷中を視察となると、かなりの日数がかかりそうです」
「大丈夫だよ。むしろ、問題点をたくさん発見できて良かった」
「その通りだ」
リーナは父親や兄が自分の仕事を褒めてくれたことを嬉しく思ったが、気になることもあった。
「でも、私は養女になったばかりです。レーベルオードについてもこのお屋敷についてもよく知っているわけではありません。偉そうなことを言ってしまったかもしれません」
「リーナはレーベルオード伯爵家の一員だ。間違いなく偉いよ?」
「その通りだ。私の代理として視察をしている。堂々としていればいい」
パルカルもレーベルオード伯爵も気にしなくていいと判断した。
「僕や父上は忙しくて屋敷のことを細かく考えている暇はない。リーナがレーベルオード伯爵令嬢として屋敷のことを見てくれるのはとても助かるよ」
「ダウンリー男爵夫人はお屋敷のことをしないのでしょうか?」
「ここはレーベルオードの屋敷だ。ダウンリーの者が仕切ることはできない」
レーベルオード伯爵は断言した。
「アマンダは秘書だが、ダウンリーに関係するようなことばかりだ。ジリアンが成人してダウンリー男爵位を正式に継いだが、まだ学生だ。すぐに当主としての執務をできるわけでもないため、母親のアマンダがジリアンに代わってかなりの部分をこなしている」
「そうでしたか」
「模様替えをするのはとてもいいと思う。リーナがウォータール・ハウスをどんな風に変えてくれるのか楽しみだ。今更だけど、この屋敷は好きじゃないから」
パスカルの言葉を聞いた途端、レーベルオード伯爵は顔をしかめた。
「初耳だ」
「とても古くて陰気臭い。使用していない部屋も多くて無駄です。僕が当主になったら、一部は閉鎖するか取り壊したいと思っています」
「そうだったのか。実を言うと、私も取り壊してもいいと思っている場所がある」
「どこですか?」
「東館だ」
パスカルは驚いた。
「リーナの部屋があるのに、なくすのですか?」
「あくまでも一時的な部屋割りだ。一生あの場所でなくてもいいだろう?」
レーベルオード伯爵とパスカルの強い視線がぶつかり合う。
始まったとリーナは思った。
レーベルオード伯爵とパスカルは親子だからこそ、遠慮なく意見を言う。
同じ意見や方向性が一緒であればいいが、違うとまるで喧嘩をしているかのような会話が始まる。
「僕は西館を壊すべきだと思います」
「召使いが住む場所がなくなる」
「東館に住めばいいだけです。僕は南館、リーナは東館、父上はこのまま北館です」
「当主の部屋とリーナの部屋を南館に移したい」
「では、移せばいいだけです」
「東館はいらないだろう?」
「いいえ。西館の方が古いので、東館に召使いの住む場所を移せばいいと思います」
レーベルオード伯爵もパスカルも退かない。
リーナは何も言わず、大人しく食事を続けた。
食事中の会話は食事中だけ。
食事が終われば会話も終わるということがわかっていた。





