407 屋敷の視察開始
リーナは早く起きた。
それだけで得をした気分になるほど、やる気に満ちていた。
「おはようございます」
召使いが来るのは非常に早かった。
てきぱきと身支度を終わらせ、リーナ専用の食堂での朝食が始まった。
「今日の予定を申し上げます。朝食後はウォータール・ハウス内の視察を行います。昼食までに可能な限りの部屋を見て回ります。昼食後も視察がありますが、疲れたということであれば、休憩や勉強時間に変更します。お茶の時間はいつも通り閣下とご一緒です。その際、視察に関する質問等があるかと思われます。報告書の作成は夕食前に行いますが、時間がなければ翌日の午前中に。視察は今日だけでなく、明日以降も終わるまで行われます。何かご質問は?」
「メモとペンがほしいです」
「私が持っています。教えていただければ書き留めますが?」
「自分で書きます。報告書を書く時の参考にしたいのです」
「では、用意いたします」
朝食が終わると、リーナは早速レーベルオード伯爵の代理として視察をすることになった。
これは仕事です! お父様の代理を任された以上、頑張らないと!
リーナは王族付きの侍女として働いていた時のような表情になった。
最初に視察するのは正面玄関。
最優先で確認するのはお披露目の催しがある時に使用される部屋や経路になった。
「リーナ様、何かありますでしょうか?」
今回、視察に同行するのはリーナ付きのマリウス、侍従のハンス、侍女のメアリーの三人。
正面玄関は毎日掃除されている。問題はないだろうと三人は思っていた。
ところが。
「ここ、掃除されていません」
「えっ?」
思わずハンスが声を上げた。
「どこでしょうか?」
メアリーは気づかなかったと思いながら尋ねた。
「この扉の下です」
リーナは指で黄金色の両扉の下を示した。
「この両扉は大きいです。いつも片側しか開けていないので、開けている方しか掃除していないでは? 催しの時は両方開きます。掃除しておかないとです」
「確かに」
「汚れていますね」
「埃が見えますね……」
扉を開けずに掃除した。そのせいで扉の真下の掃除ができていない。
ウォータール・ハウスは広く掃除する場所も多い。
効率的に必要な場所だけ掃除をしているとしても、正面玄関は屋敷の顔ともいえる場所。
埃が見えるのは手抜き掃除の証拠。許されないことだった。
「この分だと、扉の上も掃除されていません。埃がありそうです」
「上?」
マリウス、ハンス、メアリーが扉を見上げた。
「扉の厚みの上部です」
開閉している場合は、扉が動くせいで厚みの上部に埃が溜まりにくい。
しかし、真下の部分に埃があるということは、上の部分にも埃があるはずだとリーナは推測した。
「この両扉は全面的に見事な装飾があるので、招待客はよく見ると思います。装飾の部分も軽く拭いて終わりのようです。細かい部分はブラシで丁寧に掃除しないと綺麗になりません」
装飾の部分は凹凸が多い。布で拭くだけでは凹凸の中に入り込んでしまった埃や汚れを全て取ることはできない。
メイベルに指導されていたリーナはそう教えられていた。
「シャンデリアも掃除されていません。どう見ても曇っています」
リーナは綺麗に掃除したシャンデリアとそうでないシャンデリアの違いを見分けることができた。
「基本的に掃除をするのは女性なので、高い場所や重量のあるものはなかなか掃除されません。お披露目の前にそういうところもしっかりと掃除をしておかないです」
リーナの指摘は正しいと思った三人は頷いた。
「招待客はここがレーベルオード伯爵家のお屋敷なのかと思いながらあちこち見ます。その時に汚れや埃を見つけられてしまったら大変です。レーベルオード伯爵家の名誉にかかわるので、掃除担当者には丁寧に細かく掃除するよう伝えてください」
「わかりました」
「必ずお伝えします」
そのあとも正面玄関の確認が続いた。





