406 頼まれた仕事
「リーナのお披露目の準備をしている。大勢の招待客が来るため、使用する部屋が多い。特別な賓客は宿泊する予定のため、屋敷内を案内しろと言われるだろう。その時に問題があると困る。そこで屋敷中を視察してほしい」
このような仕事は屋敷の主人、その妻、子どものいずれかが担当する。
だが、レーベルオード伯爵もパスカルも忙しい。
レーベルオード伯爵夫人はいない。
そこで、娘のリーナに任せるということだった。
「王族が来ても対応できるように準備しなければならない」
「王族が来ても? もしかして、来るのですか?」
「第四王子殿下がお忍びで視察に来る」
「えっ!」
リーナは飛び上がりそうなほど驚いた。
「第四王子殿下は社交嫌いだが、成人することに向けて経験を積むことになった。晩餐会にも出席される。食べ物や飲み物の嗜好について教えてほしい。パスカルにも聞いたのだが、食事は何でもいいと言われた。だが、本当にそれでいいのか?」
どんな食事を出しても食べない。だからこそ、何でもいい。
パスカルはそう思ったのだろうとリーナは推測した。
「王族に関する情報漏洩は許されない。だが、リーナがどう思うのかどうかは答えることができるはずだ。リーナの意見を聞きたい」
「私の意見?」
「お茶を出しても平気だと思うか? コーヒーでなければ激怒しそうだと思うか?」
「お茶を出しても平気だと思います」
コーヒーを出せと言って激怒したことはないとリーナは思った。
「乾杯がある。未成年だが、酒を出した方がいいと思うか?」
「お酒……」
ミレニアスに行った時、食事の席を共にしたことがある。
酒は出ていたが、セイフリードが飲んでいた姿を見た記憶はなかった。
「……食事に同席した時、お酒は出ていたのは覚えています。でも、飲んでいる姿を見た記憶がありません。出すことはできますけれど、飲むかどうかは別だと思います」
「わかった。甘いものを出してもいいと思うか?」
「大丈夫です! 喜びそうです!」
リーナは即答した。
「では、何か軽くつまめるようなもので、甘いものを用意させるか」
「手が汚れるのはダメです。殿下は潔癖な感じがします」
最初は掃除していない部屋にいただけに気づかなかったが、セイフリードは潔癖なところがある。
非常に古い本や新聞などはそのまま手に持ちたがらない。手袋をつけて読むこともあった。
「潔癖症の者の場合、古いものを嫌がる場合もある。新しい家具を入れなければならないかもしれない」
リーナはセイフリードの図書室や寝室、居間の家具を思い出した。
「……偶然かもしれませんが、殿下が最も使用する部屋の家具は、比較的新しいものです。装飾にも時代ごとの流行というか特徴があって、勉強として教えてもらいました」
「最新のものを好まれていそうだと思うか?」
「最新のものは本だけです。家具についてはそんな感じではなさそうな気がします」
「わかった。パスカルに確認する。リーナが第四王子付きでよかった。また何かあれば相談するかもしれない。頼んだぞ」
リーナは嬉しくなった。
自分の経験が役に立っている。頼りにされていると感じた。
「はい! 頑張ります!」
リーナは満面の笑みを浮かべ、それを見たレーベルオード伯爵もまた笑みを浮かべた。
閣下は変わられた……。
リーナがいると、冷たく厳しい表情が柔らかくなる。
その変化はウォータール・ハウス内の空気にもあらわれていると、秘書官たちは思っていた。





