405 楽過ぎる生活
レーベルオード伯爵家が主催するお披露目の仮面舞踏会まで、リーナは勉強しながら過ごすことになった。
謁見やお茶会に関係した礼儀作法は問題ないという判断になったが、名門貴族の令嬢としての生活は一日ではない。
日々の生活の中でも、レーベルオード伯爵令嬢らしく振る舞うための勉強をする必要があった。
しかし、レーベルオード伯爵や屋敷の者は、リリアーナの教育に失敗している。
レーベルオード伯爵家では普通でも、世間一般から見れば非常に厳しいスパルタ。
ヴァーンズワース伯爵家の一人娘として甘やかされてきたリリアーナにとっては余計に厳しいと感じられ、心を追いつめる結果になってしまった。
リーナに対しても同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
絶対に厳しくはしない。できなくても失敗ばかりでもいい。元平民だけにそれが当たり前。少しずつゆっくり学ばせることを、レーベルオード伯爵も屋敷にいる者も心に刻みつけていた。
リーナはウォータール・ハウスでゆっくり過ぎる生活を送ることになった。
だが、早起きの習慣が身についており、決められた時間に合わせながらてきぱきと動くのが当たり前の人生だっただけに、ゆっくり過ぎる生活はかえってつらかった。
「お父様、お願いです! 仕事をさせてください!」
リーナはレーベルオード伯爵に懇願した。
「自由時間にすることがないのです!」
リーナは無趣味。特技もない。
自由時間は読書や散歩、養女祝いでもらった遊具で遊んだりもしていた。
一日や二日であればいいが、ずっと同じはつらい。
無理やり時間を消費しているような状態だった。
本来、貴族の令嬢は自由時間を屋敷だけで過ごす必要はない。
外出して買い物をしたり、友人と過ごしたり、社交場に行ったりして楽しむ。
だが、安全及び警護上の都合でリーナに外出を許すわけにはいかなかった。
「お茶の時間のあと、お手伝いをしていますよね? あのような時間をもっと増やしてほしいのです! 午前中でも午後でも大丈夫です!」
リーナはレーベルオード伯爵家の一員。
仕事量を増やしさまざまなことを任せることはできるが、リーナは王太子の妻になることが内定している。
ウォータール・ハウスで過ごせる月日は限られていた。
「リーナが得意なことは何だ?」
「掃除です」
「掃除は召使いの仕事だ。レーベルオード伯爵令嬢の仕事にはできない」
「ですよね……」
「興味があることは何だ?」
「特にないです。仕事ばかりの日々だったので」
「何かしたいことはあるか? 習ってみたいことでもいい」
「何も思いつきません。むしろ、貴族の女性として習っておくべきことがあれば教えていただきたいです」
生活態度や礼儀作法については今のところ問題ない。
レーベルオード伯爵家についての知識をスパルタで詰め込む必要もない。
「ダンスはどうだ? ワルツは踊れるのか?」
仮面舞踏会でリーナが踊る予定になっていることをレーベルオード伯爵は思い出した。
「踊れます!」
「そうか」
趣味や特技になるようなことを習うことはできる。
だが、ウォータール・ハウスにいる期間は多くない。中途半端になるのが目に見えていた。
レーベルオード伯爵は考えに考えた。
「では、私の代理として仕事をするのはどうだ?」
「私がお父様の代理に?」
いきなり凄いことを提案されたとリーナは思った。





