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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
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40 戸棚の中身

 リーナはひたすら仕事に励む日々を送っていた。


 一時期は二十時までには仕事が終わっていたが、今はもっと遅い。


 別の巡回ルートを探しているせいだった。


 勤務終了後に新しい巡回ルートを考えるべくうろつくわけにはいかない。不審な行動をしていると思われ、警備に捕縛されたり尋問されたりする可能性がある。


 そこで勤務の巡回をしながら少しずつルートを変え、時間を計って試していた。


 クオンからの手紙は一度きり。


 それ以降は音沙汰がない。給与明細も渡したままだ。


 どうなったのか知りたいが、自分からクオンへの連絡手段を教えられてないことに気づいた。


 自分も戸棚に手紙を入れておくのはどうかと思ったが、クオンが回収してくれるという保証はない。


 別の者に見られ、給与明細を渡したことが露見してしまうのが怖かった。


「そのうち連絡が来るかもだし……」


 リーナはレモン味のキャンディを食べ、不安を打ち消した。





 そしてついに、戸棚の中に手紙があるのを発見した。


「トイレの巡回ルート?」

 

 給与明細については書いていない。


 起点となる場所からの番号が順番に書いてある。


 リーナは青の控えの間を最初に掃除していたため、巡回も青の控えの間をスタート地点にしていた。


 ところが、手紙にあるルートは控えの間とは全く関係がない場所から始まっていた。


 リーナは掃除部のため、巡回よりも掃除を優先する。


 だからこそ、最初は掃除からだと思い、巡回もその近くからにした。


 つまり、掃除に関係ない場所の巡回から始めるという発想がなかった。


 新しい巡回ルートは早く巡回できるかどうかだけを考えていた。掃除の担当者ではないからこそのルートだ。


「これだと掃除の時間と合わないかも……」


 掃除時間の変更は勝手にできない。


 早朝の巡回中に警備に会った際、ひと気のない時間に巡回するのはよくないと注意されてもいる。

 

 この巡回ルートのままでは駄目だとリーナは感じた。


「あ、でも、これって別に時間は書いてないかも?」


 三つのグループに分かれていることにも気づく。


「上を早朝じゃなくて午後にして、真ん中を早朝にして、最後を午前にすれば……」


 やはり時間が合わない。


 リーナは掃除時間の変更を願い出ることにした。





「セーラ様、ご相談したいことがあるのですが」

「何ですか?」

「掃除時間が午前のものを早朝に変更したいのです」

「無理です」


 セーラは即座に却下した。


 ただでさえリーナは早朝勤務をするため、一部の場所の掃除時間を変更させている。


 本来は部屋と一緒に掃除すべきだというのに、そうしていない。


「自分の都合に合わせて変更できると思っているのであれば大間違いです! 我儘は許されません!」


 セーラはリーナを叱責した。


「申し訳ありません。でも、一応は理由を説明してもいいでしょうか?」

「聞くだけです。変更はできません」

「こちらを見ていただければわかりますが、使用時間よりも前に掃除をするだけなので、問題はありません。必ず綺麗な状態で使用できるようになります」


 セーラはリーナが提出した表を確認した。


 各部屋の使用予定時間帯と、現在の掃除時間、変更後の時間が記載されている。


 通常は使用された後に掃除するはずだが、リーナの案は事前に掃除する案だった。


「私は一人で掃除しています。一回でも臨時の掃除があると、かなりの時間がかかってしまいます」


 一回であればまだましだが、二回になると相当な遅延になる。


 何もなくても残業しないと終わらない仕事を抱えている。


 臨時掃除次第では二十四時近くまでかかってしまう可能性もあることをリーナは説明した。


「私は早朝勤務なので三時から勤務です。二十四時に終わるのでは体を休めることができません。残業を優先すると食事や入浴時間にも間に合いません」


 セーラは顔をしかめたまま何も言わない。


「巡回中に規則違反者に遭遇することもありました。一歩間違えれば不審者に出会う可能性もあります。警備にもひと気のない場所には注意しろと言われています。できるだけ明るい時間に巡回したいのです」


 それについてはセーラもわかっている。


 元々夜間勤務が好ましくないからこそ、早朝勤務の許可が出たのだ。


 だが、相変わらず夜まで残業している。


「私は掃除部です。掃除が優先です。時間の変更が無理ということであれば、これ以上は工夫しようがありません。巡回をこなすのは無理です。別の者に巡回を担当して貰えないでしょうか? そろそろ清掃部も落ち着いたと思います。毎日十七時間以上勤務していることを考慮していただけないでしょうか?」


 セーラは驚いた。


 いつも従順で大人しいリーナが強気の発言をしている。


 説明も理由もおかしくない。判断しやすいよう資料まで作っていた。


 やや反抗的にも感じるものの、それだけ追い詰められているように感じた。


 毎日十七時間以上の勤務で追い詰められないわけがない。


「セーラ、試しにやらせてみなさい」


 メリーネが許可を出した。


「わかりました。では、試しということで認めます」

「ありがとうございます!」

「リーナ」


 メリーネが呼んだ。


「はい!」

「必ず部屋の使用時間までに掃除を終えなさい。できなければ元に戻しなさい」

「わかりました!」


 リーナは部屋の使用時間と照らし合わせて問題なければ、希望通りの時間に掃除をできることになった。






 リーナは自分で考えた順番で掃除や巡回をするようになり、十九時前に仕事が終わるようになった。


 だが、新しい時間の短縮方法を思いついた。


「セーラ様、モップが欲しいです!」

「モップ? ないのですか?」

「ありません」


 巡回している際、リーナは廊下を掃除している者を見かけた。


 そして、気づく。


 リーナの担当している場所の掃除道具入れにはモップがなかった。


 クオンの手紙が入っていないかを調べるせいで戸棚を注意深く見るようになり、担当になった時におかしいと感じたことを思い出した。


 モップがないことを報告してもいなければ、どうしてなのか聞いてもいなかった。


 雑巾があるために雑巾でするのだと勝手に思い込んでいた。


「床を水拭きで掃除する際にはモップを使うのですが、私の担当している場所の掃除道具入れにはありませんでした。雑巾があったのでずっと雑巾でしていたのですが、もしかすると不備ではないのかと思いました」


 掃除をするためには掃除道具が欠かせない。


 普通に考えればモップは道具入れに入っているはずだというのにない。


 タオルが紛失することもあるように、モップが紛失した可能性をリーナは考えた。


「様々な場所を掃除する際にモップを使用するのが普通です。私の担当している場所だけモップがないのはおかしい気がします」


 掃除部の者は様々な装具道具や必要品を乗せたワゴンを押して移動する。


 掃除場所やその近くにある掃除道具入れから取り出すこともあるが、本数が足りないということもよくある。


 その場合は別の場所から掃除道具入れから借りて使い、後で掃除道具がないことを報告する。


「私の担当する場所についても、誰かが緊急で借りたままになっているのかもしれません。通達はなかったのですが、モップだけは掃除部から持って来るということなのでしょうか?」


 リーナが報告する様子を見ていたメリーネが口を開いた。


「セーラ、モップを用意してあげなさい。掃除道具が不足しているのであれば準備するのが当然です」

「わかりました」

「リーナ」

「はい!」


 メリーネに名前を呼ばれたリーナは緊張した。


「備品の貸し借りはよくあります。勝手に持って行かれると紛失か盗難のように思うでしょう。前任者が叱責を恐れて黙っていた可能性があります。掃除部の管理する別の場所から持参したり返却していた可能性もあります」


 さすが清掃部長、鋭い考察だとリーナは思った。


「これからも掃除道具で不足だと思うものがあれば報告しなさい。手配させます」

「はい! ありがとうございます!」


 モップの導入効果は絶大だった。


 掃除がかなり早く終わるようになった。


 十七時半前に掃除が終わるという大快挙を達成した。


 早朝勤務はあるものの、残業が三十分程度で済む。


 清掃部の上司達もリーナの報告に驚いた。


 二十四時近くまでかかることもあったというのに、地道に改善を重ね、努力することで約六時間も短縮した。


「素晴らしい成果です。懸命に努力したからでしょう」

「この件は評価します。給与が上がるでしょう」

「ありがとうございます!」


 能力給が一万ギニー増え、リーナの給与は十九万ギニーになった。




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