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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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399 お手伝い



 大応接間での検分が終わると、リーナはレーベルオード伯爵と共に執務室に行くことになった。


 レーベルオード伯爵は執務室に行くと、秘書官たちにリーナの席を設けるよう命令した。


「リーナに手伝ってほしいことがある。いいか?」

「はい!」


 リーナに任された仕事は、レーベルオード伯爵家に届いた手紙や品に関するものだった。


 レーベルオード伯爵家は非常に多くの人々とつながりがある。


 レーベルオード伯爵やパスカルとの個人的なつながりに限定されているわけではなく、建国より続く名門貴族、伯爵家としてのつながりもある。


 前レーベルオード伯爵は若い時に他国の駐在員を務めており、外務大臣になったことからエルグラード以外の友人知人も多く、その交流範囲は極めて広かった。


 そういった人々からも祝辞や祝いの品が届くと予想されているため、レーベルオード伯爵、パスカル、リーナが個人的に知っている人物なのか、知っている場合はどのような関係なのかなどを確認し、その内容をリストにしてまとめなければならなかった。


「こちらは身分ごとのリストになっております。王族、貴族、騎士爵、平民です。貴族は公爵から男爵まで、大公家は分けます。騎士爵は世襲と一代、平民も血筋や家格、職業などで分かれています」


 詳しい説明は秘書官のラウディが務めた。


「基本的には届いた手紙や品の送り状を見て名前や住所などを記入しています。リストにリーナ様がご存知の名前があれば、この欄にハートのマークを書いていただきます」

「ハートマークですか?」


 リーナはラウディの説明に驚いた。


「普通は丸とかバツですよね?」

「誰がチェックするかで違うマークにしています。他の者と同じマークにならないようにするため、リーナ様はハートなのです」


 なるほどとリーナは思った。


「でも、大事な書類ですよね? 本当にハートのマークでいいのですか?」

「こちらは内部書類の集計用ですので、正式な書類というわけではありません。メモと同じだと思ってくださって結構です」


 ラウディは淡々とした口調で説明した。


「備考欄にはどのような関係なのかを記入してください。わかりやすく言いますと、友人、上司、同僚などといったような簡潔な言葉でお願いいたします。わからないことがあれば、遠慮なくお聞きください」

「わかりました。やってみます!」


 リーナは早速一枚目の書類を見た。


 王族のリスト……。


 王族から贈り物が届くのだろうかという疑問はすぐに解消した。


 しっかりと名前がありますね……。


 最初に記入してあったのはローワガルン大公世子ハルヴァーの名前だった。


 届いたものはカードと贈り物。すでに丸のマークがあり、品名のところには室内用ブランコとなっている。


 リーナは早速質問することにした。


「ラウディさん」

「名前だけで構いません。何か?」

「知っている者についてはハートを書いて、備考欄にどのような関係かを記入するということでした。お茶会で会ったことがある方は、どのように書けばいいのですか?」

「お茶会で会ったというのは、挨拶をしたということでしょうか?」


 リーナはハルヴァーに会った時のことを思い出した。


「……紹介されました」

「単に紹介されただけで、個人的に親しいわけでも、会話をしたわけでもないということでよろしいでしょうか?」

「ミレニアスに訪問した時、第二王子殿下に同行して茶会に行きました。その時に第二王子殿下の友人の方々を紹介されたのです。それから帰国前に第二王子殿下に同行して、ハルヴァー様のお城にも行きました。少しだけお話をしましたが、王族付きの侍女として勤務中でした。個人的に会話をしたと言うべきかわからないのですが?」

「紹介されたということでしたが、誰から紹介されたのでしょうか? 第二王子殿下の側近からでしょうか?」

「ハルヴァー様の身分と名前を教えてくれたのは第二王子殿下です。ノースランド子爵は大公世子という身分がどのようなものかを教えてくれました」


 ラウディは考えた。


 第二王子が自分の友人を王族付きの侍女に直接紹介することはない。


 そうなると、第二王子はリーナをレーベルオード伯爵令嬢として扱ったことになる。


「第二王子殿下はリーナ様のことを相手の方にレーベルオード伯爵令嬢だと紹介されましたか? それとも自分の同行者、侍女というような説明をされたのでしょうか?」

「茶会の最初にレーベルオード伯爵令嬢だという紹介がありましたので、個別の紹介はありませんでした」

「その茶会は第二王子殿下が主催のものでしょうか?」

「ミレニアスのフレデリック王太子殿下の主催です」

「では、ミレニアスの王太子がリーナ様を茶会の出席者に向けて全体的に紹介されたということでしょうか?」

「そうです」


 ラウディは重要人物としてリーナが紹介されたと判断した。


 でなければ、茶会で全体に紹介がされることはないはずだった。


「では、第二王子の紹介。知人とお書きください」

「わかりました」


 リーナはハルヴァーの備考欄に、言われた通りに記入をした。


 二番目に名前があったのは、ハルヴァーの弟のルーシェだった。


「すみません。またいいですか?」

「何か?」

「夜会で紹介されました。弟の紹介なので、弟の紹介、知人と書けばいいですか? それとも弟の友人と書けばいいのでしょうか?」


 ラウディはリーナの言葉を聞いて固まった。


 弟……?


 リーナは養女。元平民の孤児のはずだった。


 ところが、弟がいる。ローワガルン大公子を紹介するほどの。


 ラウディは視線をレーベルオード伯爵に移した。


 レーベルオード伯爵は別の書類を見ていたが、しっかりと会話は聞いていた。


「インヴァネス大公子の友人と書け」

「わかりました」


 リーナはレーベルオード伯爵の言った通りに書いた。


 ラウディも他の秘書官も驚いたが、すぐに納得もした。


 インヴァネス大公子はパスカルにとって父親違いの弟になる。


 リーナは自分の義理の兄パスカルの弟になるインヴァネス大公子のことを、年齢的に考えれば自分の義理の弟だと位置づけ、弟という言葉を使ったのだと解釈した。


 三番目の名前はフレデリックだった。


 そして、四番目の名前を見たリーナは瞬時に固まった。


「お父様」


 リーナはラウディではなくレーベルオード伯爵に声をかけた。


「どうした?」

「インヴァネス大公の名前があります。備考欄はどうすれば?」


 レーベルオード伯爵はリーナの言いたいことをすぐに察した。


 父親。そう書くわけにはいかない。どうすればいいかわからない。


「何も記入する必要はない」

「はい」


 リーナは何も書かなかったが、ハートマークは記入した。


 そのあとも確認作業は続いたが、リーナが知っている者はいなかった。


「一枚目が終わりました」

「確認させていただきます」


 ラウディはリーナが確認したリストにさっと目を通した後、すぐにレーベルオード伯爵のところに行った。


「閣下、至急ご確認いただきたいのですが」

「どこだ」

「ここです」


 ラウディが指摘した場所を見て、レーベルオード伯爵は眉を上げた。


 リーナはフレデリックの備考欄に、いとこと記入していた。


「リーナ」


 二枚目のリストを見ていたリーナは視線をレーベルオード伯爵に向けた。


「何でしょうか」

「こっちへ来い」


 リーナが来ると、レーベルオード伯爵は備考欄にあるいとこの文字を指で示した。


「これは違う。無記入にするのが正しい」

「ああ!」


 インヴァネス大公やフェリックス、エゼルバードの友人たちについては確認したにもかかわらず、フレデリックについては確認することなく書いてしまっていた。


「ごめんなさい……間違えました」

「次は気をつけるように。ラウディ、ここだけを焼却しろ。他言無用だ」

「わかりました」


 塗りつぶすだけでは他の者に何を書いたかわかってしまうことがある。


 かといってリストを書き写すのは手間がかかる。


 だからこその対応を指示されたラウディは、フレデリック王太子の備考欄の部分だけをハサミで切り取った。


 そして切り取った部分を灰皿の上に置くと、すぐにマッチで火をつけた。


「ラウディもすみません。余計な手間をかけてしまいました」

「私に謝る必要はありません。どうかお気にせず。二枚目のリストをご確認ください」

「はい」


 リーナは絶対に間違えないようにと思いながら、じっくりとリストを確認し続けた。


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