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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
39/1356

39 偶然の出会いから

 そして、ある日のこと。


 後宮でクオンは下働きの女性に会った。


 その偶然が思わぬことにつながった。


 鉄壁の情報隠匿を誇る後宮の問題を見つけた。


 本来は階級が上の者の仕事を、下の者がしていた。仕事をさせるために後宮内における厳重な身分や階級による行動規定とその範囲を守っていなかった。


 完全な違反行為だ。


「人事に関する問題を発見した以上、放置することはできない!」


 クオンは強く主張した。


「この問題は私が発見した! 納得できるよう私が調べる!」

「後宮統括官を通せ。その方がこちらにも調査報告が入る」


 国王は後宮監理官を通すという形でクオンに調査権を認めた。


 クオンの側近達はすぐに行動した。


 そして違反の事実を確認した。


「階級による行動制限は王家の安全確保を目的としている。違反行為を増長させないためにも、厳しい対応が必要だ!」

「わかっている。注意だけでは済まさない」


 国王は違反者を処罰し、後宮予算の一部を取り上げた。


 そして、クオンは違反を見つけた手柄として後宮から取り上げた予算を奪い、自分のものにした。


 クオンは嬉しかった。


 国王にも後宮にも一矢報いたと感じた。


 そして、前例ができれば簡単だと思った。


 また違反行為や不正を発見すれば、それを理由にして調査し、後宮予算を縮小できる。手柄として処罰分の予算も奪える。良い事尽くしだ。


 但し、気になることがあった。


 違反を見つけるきっかけになった下働きのことだった。


 真面目に仕事に励んでいるというのに、この件で処罰されるのは望ましくない。


 その下働きが一切の処罰を免除されるよう手をまわした。


 堂々と褒美を与えることができないため、今後は同じ仕事をしても違反にならないよう昇格させろと圧力をかけた。


 そして、年月が過ぎる。


 クオンは再会した。


 かつて、控えの間で遭遇した下働きのリーナに。


 リーナは召使いになっていた。


 ずいぶん成長したというか女性らしくなった。


 化粧をすればより可愛くなりそうだとさえ感じた。


 しかし、口から出た言葉は別のことだった。


「太ったな?」


 クオンの記憶では相当細かった。かなりのガリガリだ。


 今は違う。細い方だとは思うが、ガリガリというほどではない。


 率直な感想を述べただけだった。


 女性に気の利いた言葉など言えない。


 以前よりも健康的だと言えばいいと助言してくれる者もいなかった。


「後宮の生活はどうだ? 十分か?」


 クオンはリーナに質問した。


 また何か後宮に関する情報で使えそうなことはないか探ろうとした。


 リーナはクオンの質問に答えた。


 王太子とは知らないまま、身分の高そうな者に逆らったら無礼になってしまいそうだという理由で。


 そして、クオンはまたもや思わぬ事実を突き止めた。


 残業について質問をした時だった。


「以前は二十四時位でしたが、一生懸命工夫したので二十時までには終わるようになりました!」


 働き過ぎだ。


 但し、自己申告。証明するものがない。


「給与明細は?」

「あります」

「それを持って来い」


 そして、リーナに時間がないため朝食も取れない、掃除に行きたいと言われた。

「情報料だ。購買部で何か買えばいい。朝食代わりに菓子でも食べろ」

「受け取れません」


 リーナは迷うことなく断った。


 違反行為になると思ったために。


 真面目だと思った。褒めたいとも。


 そのやり取りで、おかしい点がまたもや見つかる。


「朝食代はこんなにかかりません。毎月の食費は三万ギニーです」


 後宮で働いている者の生活費は給与から徴収されている。


 住み込みの生活費は雇い主が負担するものだとクオンは思っていた。


 リーナの話は驚きと違和感ばかり。


 だが、自身が王太子であるからこそ、感じることなのかもしれない。


 だからこそ、調べさせた。


 そして、調査結果が出た。





 王宮や騎士団等の場合、生活費は所属先の予算で賄う。


 雇い人の給与から生活費が引かれることはない。部屋代も食費も制服代も施設代も共益費も無料だ。請求されない。


 後宮だけが違っている。普通に考えれば非常におかしい。


 後宮の回答書もあった。


 後宮のやり方が違うのは、莫大な運営費用の負担軽減・違反行為・不満を抑えるため。


 後宮が全盛を極めるほど華やかな時代、王族の側妃や寵姫は贅沢三昧をしていた。


 側妃や寵姫に与えられた予算だけでは足りない。


 後宮の予算で補うにも限界がある。


 後宮は予算のやりくりをしなければならなくなった結果、贅沢をする者からは相応分を徴収するという前例ができた。


 贅沢するなら有料だということだ。


 側妃や寵姫が予算以上の贅沢をした場合、超えた分は側妃や寵姫の個人財産あるいは実家が支払うことになった。


 後宮に入る際の誓約書に明記されてもいた。自身や実家が支払わなければ、側妃や寵姫でも処罰対象になる。


 つまり、最初は側妃や寵姫が予算以上の贅沢をしないよう戒めるための有料化だった。


 それが後宮全体の規則や常識になった。


 問題が起きると、二度と同じ問題が起きないよう何かが有料になった。


 様々な不公平を有料にして金銭的な差をつける。金銭負担の大小で公平に調整しようとした。


 部屋代の有料化。


 良い部屋になれば部屋代が高い。悪い部屋で我慢すれば部屋代が安い。


 食費の有料化。


 食事が豪勢になれば食費が高い。標準なら安い。


 制服の有料化。


 一人当たりに支給される制服の枚数差による不公平さも十枚に統一。


 有料で貸し出しにすることによって改造や譲渡等の違反行為を予防。


 共益費の徴収。


 備品の私物化や盗難の予防のための有料化。


 施設の徴収。


 施設利用の優先順位をつくるための有料化。


 クリーニング代の徴収。


 無駄な洗濯物をなくす。経費節減と労働負担減のための有料化。


 最終的には生活費全般が有料になったという内容だ。


「読んだ?」

 

 ヘンデルが戻って来た。


「やはり後宮だけが特殊だったか。明らかにおかしいと思った」

「まあね。回答書を見るとまあまあわからないでもない。ただ、突っ込みどころは色々ある」


 通常の住み込みは雇い主が基本的な生活費を負担する。


 後宮の住み込みは給与から生活費が引かれている。雇い人の方が負担している。


 しかも、生活費が高い。


「給与の低い者は生活費でマイナスになる。ただ働きどころの話じゃない」


 ただ働きはゼロ。マイナスではない。


「借金の強要だ」

「俺もそう思った」

「だというのに、問題ないという回答が記されている」

「忠誠心を試されているとは思わなかったなあ」


 給与から生活費がマイナスの者は日給者がほとんどで、いわゆる試用期間。


 お金ではなく忠誠心で働けるかどうかの覚悟を見極めるためのテストも兼ねている。


 マイナスになっても働けるということは、お金のためではなく忠誠心で働いていると判断され、正式な採用になる。


「月給になれば、生活費でマイナスになる者はいないみたいだし」


 給与額は生活費を考慮した額になっているため、生活費を引いても必ず残るようになっている。


 制服代も一気に請求が来るためにマイナスになるが、分割として考えれば一年程度で払い終わる。


 何年も同じ制服を着用するため、長い目で見れば私服勤務よりも衣装代がかからない。


「結局、マイナスになるのは購買部で買い物しているからってことだよね」


 ずっとマイナスなのは生活費や制服代のせいではない。


 後宮の購買部で様々なものを購入しているからだ。


 自己選択。自己責任。


 後宮側から強制的に買えとも買うなとも言わない。


「後宮には責任がないと言いたいわけだ」


 解雇されない以上、必ず給与は支払われる。


 部屋に住むな、食事を取るなとも言われない。


 衣食住が保証されているということだ。


 給与明細でマイナスでも購買部でツケ買いができる。


 日常的な必需品だけでなく、単に欲しいものでも構わない。


 贅沢な環境を享受している。


 任意で購入した物品について自己負担を求めるのは適切だという説明だった。


「後宮の維持費についての不満まで書いてあるよ」


 後宮という建物を維持するだけでもかなりの費用がかかる。


 年々老朽化の影響が酷く、修繕費用がかさんでいる。


 徴収した分はそのような部分に充てられていると説明されていた。


「確かに後宮の建物は古い。修繕費用はかかりそうだね」


 それは仕方がないとクオンも感じた。


「側妃候補の費用も多いってさ」

「国王のせいだ」

「そして、国王は王太子のせいにするわけだ。早く選ばない王太子のせいで、側妃候補の数が無駄に多いって」

「エゼルバードやレイフィールの側妃候補もいる」


 国王は王太子の側妃候補だけでなく、第二王子や第三王子の側妃候補も後宮に入れた。


 年々、少しずつ増やしている。


 そして、徴収した入宮代を新離宮の建設費用に追加している。


 側妃候補の生活費は通常の後宮予算で賄われている。


 その部分だけ見ても、後宮が苦しくなる一方なのはわかりやすかった。


「側妃候補がさっさと退宮すれば、余計な金がかからない」

「一人選べば残りはいなくなるっぽいよ?」

「それはない。もう一人位選べと言われるに決まっている」


 国王の側妃は三人いる。同じ位いてもいいと思う者がいる。かなり。


「まあね。でも、金だけとって用済みだから実家に戻れとは言えないよね。王家の面目丸つぶれだし?」


 クオンは顔を歪めた。


 すでに入宮代を徴収していること自体が面目丸つぶれだと感じるしかない。


 だが、多くの者は入宮代を後宮にいる側妃候補の生活費の一部と思っている。


 勉強代、側妃になる際の持参金の一部と思っている者もいる。


 予算については機密事項だけに、入宮代がどのように扱われているのかを公にすることはない。


 国王の財布の中身を公開するわけがなかった。


「だとしても、そろそろ頃合いではないか?」


 もはや我慢比べの状況だ。


 入宮の最長者は約七年。


「実家に戻らなければ、このまま後宮で朽ち果てるかもしれない」

「両親は喜ぶかも? 娘の生活費がかかりにくいし、名誉だってあるじゃん?」

「誰かがうまく説得できないか?」

「王太子が脅しても居座っている相手だよ? 無理じゃないかなあ。文句と手紙もまだまだ届くよ」


 王太子が通ってくれない。自分の所に来て欲しい。世継ぎが必要ではないのかなどと書き連ねて来る。


 寵を得るのは難しいと知って開き直り、飾りの正妃や側妃でも構わないという者も少なくない。


「これだけ冷たくあしらわれているのにめげないねえ。それだけ王太子への思慕が深いのかもしれないけど、王族妃の座への執念も感じるよ。怖いなあ」


 側妃候補はこぞってクオンを慕っている、心から愛していると言う。


 だが、口先だけでは何とでも言える。


 クオンではなく、王太子という身分のことかもしれない。


 そもそも、入宮する前に忠告したのだ。


 入宮するなら友人関係は解消すると。それでも入宮した。


 もはや友人でさえない。忠告を無視した裏切者になった。


 だというのに、妻になれると思っている。


 その神経を疑うしかないというのがクオンの本音だ。


「適当に誰か正妃にしちゃったら?」

「却下だ」

「じゃあ、無理。俺も我慢比べに参加しているわけで」

「後宮担当のくせに一人も追い出していない」


 クオンは不機嫌な表情でヘンデルの成果不足を指摘した。


「追い出す以外のことはしているよ? 愚痴を聞いたり色々調べたり」


 ヘンデルは折りたたんでいた書類をポケットから取り出した。


「回答には購買部のことがなかった。費用がかかるのは明らかなのに、別のことを理由にした。怪しいよね」

「怪しいに決まっている。わざとだ。購買部に目を向けさせたくないのだろう」


 クオンはそう言いながらヘンデルが取り出した書類に目を通した。


 後宮に出入りしている商人の名前が記されていた。


「そこにあるだけでも一部。後宮の書類を見ることができないと不便過ぎる。王都の商人達から情報収集しないといけない」

「何かわかったのか? 名前だけか?」

「高額な品を扱う商人が圧倒的に多い。後宮には給料の低い下働きもいるのに、安価なものは一切ない」


 後宮にいる全員に合わせた品を納入することはできない。


 上の者が優先になる。


 その結果、後宮の購買部は上の者が必要とする品、高級品になる。


「気になったことがあってさ」

「なんだ?」

「後宮の購買部は王宮の購買部と基本的には一緒のはずだ。つまり、商人から商品を買い取って転売する。でも、売れ残る品もあるはずだよね。どうしているのかなって」

「廃棄するしかない」

「賞味期限が切れたお菓子はわかる。でも、高級品は廃棄しないよね? 勿体ないじゃん?」


 クオンは考えた。


「値段を下げて売るのではないか?」

「普通はそうだよね」


 ヘンデルはにっこり微笑んだ。


「……違うのか?」

「後宮の購買部は値下げしない。俺、結構使っているけれど、賞味期限当日の菓子だって値段は一緒だよ」

「そうなのか」

「ちなみに王宮は下げる。賞味期限当日は特価になる」

「だったら廃棄されるだけだろう。賞味期限が切れている」

「賞味期限が切れないものは? ペンとか時計とか」

「知らない」

「後宮の回答が早かったのも気になる。前もって用意しておいた可能性が高い。いつ指摘されてもいいようにさ」

「そうかもしれない」

「リーナちゃんに調べて貰う?」

「許さない」


 クオンは即座に却下した。


「私もその件については考えてみた」


 リーナは一人で仕事をしている。


 巡回する仕事もあるため、情報を集めるのにいいのではないかとクオンは思った。


「熟考した結果、却下することにした。リーナは使わない」

「駄目な理由を具体的に教えてよ?」

「金を受け取らない」


 なるほどとヘンデルは思った。


 誰かを使うのであれば、金を受け取る者の方が使いやすい。


 割り切った関係にできる。


「金で動く者の方がいい。何かあった際も切り捨てられる。それを覚悟した上で報酬を受け取っているはずだ」

「もしかして、リーナちゃんを巻き込みたくない?」


 クオンはヘンデルを睨みつけた。


「適材適所だ。真面目過ぎるリーナはスパイにはなれない。もっとしたたかで、上の方を探れる者がいい。トイレを探っても大した問題は見つからない。購買部が怪しいのであれば、購買部の者を買収したほうがいいだろう」

「それもそうだけど」


 ヘンデルはため息をついた。


「後宮の者って口が堅いよねえ。なかなか情報をくれない。王宮は買収し放題なのになあ。借金だらけのくせにお金で釣れない者が多い」

「物で釣れる者もいる。うまくやれ」

「そっちもね?」

「どういう意味だ?」


 クオンは眉をひそめた。


「リーナちゃん、化粧してないのに可愛いよね」


 美人や美少女というわけではない。


 だが、素朴な愛らしさがあるとヘンデルは思った。


「クオンってああいうのがタイプ? 十八歳ならピチピチの成人だね。若い子がいいわけ? それとも初心な子?」


 ヘンデルの軽口はいつものことだった。


 だが、見逃せない。


「リーナに会ったのか?」

「警備の制服着てトイレ巡回をしている時、バッタリ会ったよ」

「おかしなことを言わなかっただろうな?」

「注意しただけだよ。ひと気がない早朝に、奥の方の巡回はやめたほうがいいって。誰かに襲われたら大変だからね。警備の言うことなら余計に説得力があるじゃん?」

 

 ヘンデルはもう一枚紙を取り出した。


「はい、これ」


 後宮の二階にあるトイレの巡回ルートが書かれていた。


「王太子の側近中の側近が、後宮にあるトイレの巡回ルートを直々に調べることになるとは思わなかったよ。確かに頼みにくい仕事ではあるよね。王太子が調べるわけにもいかないし?」

「当たり前だ。私は忙しい」

「リーナちゃんにどうぞ」

「お前がトイレに置いてくればいい」


 クオンは紙をヘンデルに突き返した。


「えっ、いいの? せっかくだから会って渡したら?」

「そんな暇はない。お前が邪推するような感情はない。偶然会っただけだというのに考え過ぎだ」


 憮然とした表情のクオンをヘンデルはじっと見つめた。


「ふーん。その割には気にかけてない? 昇格させたりお気に入りのキャンディあげたり助言までしちゃってさ」

「勤勉な者に適切な指示を出して仕事を完遂させたいだけだ。味が確かな品を選んだだけでもある。これに関しては莫大な予算も必要ない。簡単だ」


 確かに莫大な予算は必要ない。


 だが、王太子の関心を引くのであればプライスレス。


 ヘンデルはそう思った。


「激務の王太子を補佐する側近も激務だよね。なのに、警備のふりして深夜にトイレを巡らないといけなくなった俺の身にもなって欲しいなあ。警備の制服を手に入れるのだってちょっと苦労した」


 私服だと外部の者がうろついているとわかりやすい。


 そこで後宮警備隊の制服を裏ルートで入手し、面倒を防ぐことにしたのだ。


「何が言いたい?」

「報酬を下さい、王太子殿下」

「希望はあるのか?」

「一万ギール。手持ちがないから補充したい」

「金か。楽でいい」


 クオンは胸ポケットから財布を取り出した。


 お忍びで出かけることも考え、常に財布を持っている。


 千ギール札を十枚差し出した。


「さすが王太子殿下。気前がいいなあ」

「飴を買ってこい。なくなった」

「もうないの?」


 ヘンデルは呆れた。


「昨日買ってくればよかったよ。飴を食べ過ぎると病気になるからね! 虫歯も注意してよ!」

「聞き飽きた。レモン味がいい」

「それも聞き飽きたよ。いい加減別の味にしたら?」

「あれが一番いい」


 クオンが気に入っているのはレモン味のキャンディだ。


 子供の頃から食べているだけでなく、栄養素も入っている。


「気に入ると一筋だよね。女性に関しても早く気に入る相手が見つかってくれると嬉しいなあ。一途に寵愛しそうだし、跡継ぎもすぐにできて安泰じゃない? 側妃候補ともお別れできるしね」


 クオンはヘンデルを睨みつけた。


「出会いがない」

「公式行事以外は、ほとんど執務室に籠っているからだよ。気分転換に夜会にでも行けばいい」

「時間の無駄だ」

「だから出会いがない。ようやく話をするような女性が現れたと思ったら平民の下働きだし」

「今は召使いだ」


 大差ないって。


 ヘンデルはため息をついた。


 このままでは勅命で政略結婚を余儀なくされそうだと心配していた。


「身分差が半端ない。側妃にさえできないかもしれないじゃん」

「口説いているわけではない。後宮の情報収集だ」

「王宮の情報収集はしないの?」

「何のために側近や部下がいる?」

「こき使うため」


 ヘンデルは即答した。


「情報収集も仕事のうちだ」

「そうだけどさあ……面倒だから買い物はパスカルに頼むね。他に何かある?」

「ない」

「じゃあ、頼んで来る。ついでに手紙も置いて貰うよ」

「パスカルに頼むのか?」


 クオンは渋い顔をした。


「大丈夫。パスカルは何も知らない。誰がトイレ掃除しているかなんて興味ないだろうしね。むしろ、知っていたら驚き」


 ヘンデルは部屋を出て行った。


 クオンはもう一度書類に目を向けた。


 後宮は邪魔だ。絶対になくす。


 自分が国王になれば容赦はしないとクオンは思っていた。


 だが、それまでにもできることがある。


 必ずまた何かを見つける。焦る必要はない。


 クオンは書類をまとめ、執務机の引き出しにしまった。



 登場人物のエピソードでは各自の視点や考え方、独自情報があります。

 客観的なものや事実ばかりではなく、偏った見方や推測等を含みますのでご注意くださいませ。

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