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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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388 緊急の仕事



「アリシアの大好きな仕事を持って来たよ」


 王太子付き女官の一人であるアリシアの部屋に来たヘンデルはにっこりと微笑んだ。


「バラの花束を作ることかしら? それとも花瓶が必要?」


 アリシアは不機嫌だった。


 机の上には書類の束が山積みになっている。不機嫌の元はそれだということがわかりやすい。


 昔のアリシアであれば仕事量が多いほど優秀な証として喜んでいたが、結婚してからは変わった。


 母親の帰りを待っている娘と、残業をさせないために終業時間に迎えに来る夫がいる。


 娘のために残業はしたくない気持ちと夫のせいでできないという理由が、仕事をもっとしたいという気持ちよりも圧倒的に強かった。


「花瓶がいる。用意させて」

「ミュリー、花瓶を用意して」

「はい」


 アリシアの補佐をしているミュリーが部屋を出ていくと、ヘンデルはドアの内鍵をかけ、ミュリーの机の上にバラの花を置いた。


「内密の話ね。極秘で掃除したい場所がある。騎士たちに掃除させる気だけど、酷い状態でさあ。現地で掃除を仕切ってほしい」


 アリシアはため息をついた。


「私は女官なの。侍女じゃないのよ?」

「わかっているけど、王太子のデート場所なんだよ。今日、リーナちゃんが王宮に来るのは知っているよね?」

「もちろんよ。レーベルオードの養女話でもちきりだもの。デートの場所は掃除がしてある場所に変更しなさい。私は忙しいの!」

「王太子がプロポーズする場所を変更できるわけない」

「なんですって!」


 アリシアは勢いよく立ち上がった。


「今日するの?」

「そうみたい」

「なぜ掃除しておかないのよ!」

「情報が漏れないようにデート場所は直前に決めることになっていた。バラ園とか愛の泉とかが人気あると教えたら、目立つからダメだって。俺としても予想外の場所を言われて困っている」

「どこなの?」

「黄金の塔」


 ありえないわ!!!


 アリシアにとってもそう思える場所だった。


「まさか……監禁しないわよね?」


 絶対に逃がさないという王太子の意思表示ではないかとアリシアは感じた。


「違うって……展望の間で王都の景色を見せたいらしい」

「よりによって黄金の塔にするなんて思わなかったわ!」

「だよね。でも、邪魔されにくいし警備もしやすい」

「監禁場所として使用されるぐらいだからそうでしょうね」

「それは言わないでほしい。クオンがそんなことをするわけがないよね? まあ、それだけあそこの印象が悪い証拠だろうけれど」

「掃除しないといけないのはわかったわ。でも、私だけでは無理よ。侍女たちも呼ばないと」

「わかるけれど、情報が洩れるのは困る。野次馬が来ちゃうじゃないか」

「よく聞きなさい」


 アリシアは凄むような表情で言った。


「黄金の塔は何階建てだと思っているの? 私一人で一階から最上階まで全ての階に指示を出せというのかしら? 問題が起きたらその階に行かないといけないのよ? 階段を何回往復させる気なのよ!」

「あっ、そうだねえ」


 ヘンデルはアリシアの指摘に納得した。


「んじゃ、信用のおける口が堅い者を助手にしていいよ。でも、最低限で頼みたいなあ」

「メイベルとローラを呼ぶわ。第四王子付きだけどいいわよね?」

「臨時なら問題ない。とにかく時間がないから急いでくれる?」

「第一王子騎士団の本部に行けばいいの?」

「現地集合。これが塔の鍵ね。掃除が終わったら俺に返して」

「わかったわ」

「んじゃ、掃除大作戦の指揮官をよろしく!」


 ヘンデルが鍵を解いてドアを開けると、花瓶を持ったミュリーがいた。


「待たせてごめんね? バラを活けて王太子の執務室に持って来て。ちなみにその花瓶はダメだよ。取り替えて」

「かしこまりました」


 ヘンデルが退出する間にも、アリシアはてきぱきと机の上を片づけていた。


「私は緊急の用件ができたから不在にするわ。バラの花は完璧に活けた状態で王太子殿下の執務室へ。執務室での手直しは一切できないから気を付けて。そのあとは留守番をお願い」

「はい」

「花瓶はシンプルなものを。豪華な柄があると、視線がバラよりも花瓶に向いてしまうでしょう? サイズはもっと大きなものに。つぼみのバラが咲いた時にボリュームが変わるでしょう?」


 ミュリーはなぜ花瓶がダメ出しされたのかを理解した。


「花瓶選びも活けるのも侍女に任せてもいいけれど、花を専門にしている侍女にしなさい。それから、絶対に命令しないで。技術を信頼して頼むの。王太子殿下の執務室に持っていくものだから、花を専門にしている侍女以外に頼んではダメよ」

「はい」


 さすが元王太子付き筆頭侍女だとミュリーは思った。


「ヴィルスラウン伯爵がここに来たことは秘密にして。ジェフリーには特にね。面倒な仕事を増やされたといってふて腐れるから。私の居場所を探すようなことがないように対応をして」


 アリシアの夫ジェフリーの愛妻家ぶりは半端ない。


 アリシアが何をしているのか気になり、休憩時間などに様子を見にくる。


 その時にアリシアが部屋にいないと王宮中を捜索するのが常だった。


「できるだけ早くお戻りになられるのが最上策かと。引き留めようとしても、三十秒も持ちません」

「わかっているけれど、すぐに終わりそうもないのよ」


 アリシアは夫が部屋に来ないよう祈りつつ、メイベルとローラがいる後宮に向かった。



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