380 賢い方法
「美の女神なら信仰しているわ」
答えたのは若い時から美貌で知られる第一側妃だった。
「ヴィーテルという都市があるのですが、昔から綺麗な水が湧き出ることで知られています。そこでは水の神殿があるのですが、祀られている水の神ヴィーターは美の神でもあるそうです」
安全な飲料水にできる綺麗な湧水は水と美の神ヴィーターによる恩恵とされていた。
ヴィーターに対する信仰が強まり、綺麗な湧水を飲むと健康で美しくなれると信じられたことからミネラルウォーターとして売られ、ヴィーテルの町は都市に発展していった。
だが、時代が過ぎることにより、老朽化や都市化の影響で神殿が古く汚れてしまったことから評判が下がってしまった。
参拝客や観光客も減ってしまい、神殿を修繕する寄付金が集まらないことをリーナは話した。
「もしよろしければこの話を広めてはいただけないでしょうか? 困っている神殿を助けるために寄付をしようと思う人があらわれるかもしれません」
リーナは自分が話をすることで、神殿を助けることができないだろうかと考えた。
「修繕と共に外観を綺麗にするための工事もできれば、きっとまた多くの参拝客や観光客が訪れるようになります。神殿の関係者だけでなくヴィーテルの人々に喜ばれて感謝されますし、水と美の神ヴィーターも大きな貢献をした者として加護を与えてくれると思うのです。いかがでしょうか?」
結局は神殿への寄付を募る話だと王妃は思った。
「楽しめる話題とは言えません」
王妃はつまらないといわんばかりの表情になった。
しかし、別の者は違った。
「リーナは優しいですね。困っている神殿を助けるための話をするとは」
エゼルバードは良心的なリーナらしい話だと感じた。
「そうだな。リーナが困っている相手を助けたいという気持ちを感じた」
レイフィールもまたリーナを良い方に評価した。
しかし、王妃は同じように思えないどころか、反論したくなった。
「神殿を助けたいのであれば、自分で寄付をすればいいではありませんか。わざわざこの話を広める必要がなくなります。王家の者の影響力を利用するような話は無礼です!」
「無礼ではない」
セイフリードが発言した。
「リーナは養女だ。レーベルオードへの遠慮があるに決まっている。その前は平民だった。王族付きの侍女として働いていたとはいえ、地方にある神殿を救うほどの力も財もない。だが、神殿が困っている話をすることで力や財のある支援者を探す手伝いはできる。自分にできる精一杯の寄付をするよりも、その方がよほど神殿を救える可能性が高い。賢い方法だ」
セイフリード様が褒めてくださるなんて!
リーナは驚きと嬉しさに目を見張った。
「確かにそうね」
第一側妃が同意した。
「興味深い話だわ。ヴィーテルにある水の神殿に寄付をすれば、水と美の神の加護が得られそうなのね?」
「神様やその加護を信じるかどうかは人それぞれです。ですが、善行をすれば報われます。神様の加護を得られます。そう考えるのが普通ではないでしょうか?」
「そうよね。神の喜ぶことをすれば、加護を得られるはずだわ!」
大富豪の貴族として生まれた第一側妃は、自分のために金を使うことを当然としてきた。
王都にある愛の神殿にも愛と美の神の加護を得られるよう多額の寄付をしているため、ヴィーテルにある水と美の神の神殿に寄付するのも悪くないと感じた。
「寄付を検討されるのであれば、急がれた方がいいかもしれません」
パスカルが発言した。
「ヴィーテルの水の神殿は水の大神殿に支援を要請しています。神殿庁もそのことを知り、神殿の維持管理に問題があり改善できないのであれば、宗教建築物としての対象から外すことを検討しているようです」
水の大神殿が支援を断ると、ヴィーテルにある水の神殿は修繕ができない。
神殿庁はエルグラード国内にある宗教及びその運営状態について監視しており、状況によっては宗教を理由にした特例対象から外してしまう。
そうなれば水の神殿は倒壊の恐れのある一般建築物ということになり、他の場所に移転するか、最悪の場合は強制的に撤去されてしまうことをパスカルが説明した。
「古くからある神殿の存亡にかかわる話だと思われます」
「だったら余計に都合が良いわね! 私の善行がより高く評価されるはずよ!」
第一側妃は喜んだ。
「早速、調べてみるわ。どの程度になるかはわからないけれど、寄付をしてあげる。美の神を祀るのにふさわしく綺麗な神殿にしないとね? そうでしょう、エゼルバード?」
「母上が望む通りにされるのがいいでしょう」
エゼルバードは微笑んだ。
「母上の善行は水の神殿やヴィーテルの人々を通して広く知れ渡ります。水と美の神ヴィーターも神殿を救った母上の功績を認めるに違いありません」
「そうね! 素晴らしい話だったわ!」
第一側妃はリーナの話を高く評価した。





