374 謁見式
白の謁見の間には国王並びに立会人としての重臣たちがいた。
リーナはレーベルオード伯爵、パスカルの後に続いて中に入った。
移動は一列で行い、国王へ挨拶をする時はパスカルとリーナの二人が脇にずれ、三角形になるような位置取りをすることになっていた。
今回はレーベルオード伯爵家がリーナを養女に迎えたことを国王に謁見するための報告で、国王が許可しないような発言をすれば、養女の手続きは無効になる。
だが、リーナをどの貴族の養女にするかについては国王や王太子、養女先の候補になった貴族たちの間でも話し合われている。
レーベルオード伯爵が形式通りの挨拶と報告をするだけで終わるはずだった。
「遠い。よく見えない」
レーベルオード伯爵からの挨拶と報告を受けた国王は、退出の許可ではなく不満を口にした。
その結果、国王と宰相で話し合い、リーナだけ顔が見えるように前に出るよう言われた。
前に出る……?
謁見式の練習はしていたが、前に出た場合の練習はしていないため、リーナは恐る恐る前に出た。
しかし、それでは遠いと言われ、国王の目の前まで来るように言われてしまった。
国王陛下の目の前!
カチコチに緊張するリーナを、国王はじっと見つめた。
「……普通だな?」
息子が選んだ女性が気になって仕方がない父親として、容貌をしっかりと確認しておくつもりだった国王は率直な感想を口にした。
どこにでもいそうな平凡な顔立ち。
色合も多民族国家であるエルグラードにおいては珍しいとは言えない。
美人と評判のリリアーナ・ヴァーンズワースが産んだ女子のはずだったが、兄のパスカルとは違って容姿的に秀でている印象はなかった。
なぜ、クルヴェリオンの目に留まったのだ?
国王は不思議で仕方がなかった。
「声を聞かれては?」
宰相がさりげなく提案した。
「そうする」
「挨拶せよ」
宰相の命令に従い、リーナは挨拶をした。
「リーナ・レーベルオードと申します。国王陛下にご拝謁する機会を賜り、大変光栄に存じます」
基本中の基本ともいえる挨拶を聞いた国王は首をひねった。
「それだけか?」
それだけ?
リーナは挨拶する言葉を教わっていた。
その通りに言っただけではあるが、それだけでいいはずでもあった。
「普通だ。全く持って謎だ……」
国王もまた息子がリーナの何をもって好ましいとしたのかがわからず、悩んでいた。
「まあいい。下がれ」
「はい」
リーナは静かにゆっくりと下がった。
「謁見は終りだ」
レーベルオード伯爵とパスカルに続き、リーナも白の謁見の間を退出した。
白の第一控室に戻ったリーナはすぐに頭を下げた。
「申し訳ありません! どのように言えばいいのかわかりませんでした!」
「大丈夫だよ。挨拶は問題なかった」
パスカルが優しく微笑んだ。
「でも、普通だと言われてしまいました。物足りなさそうな感じでした」
「国王陛下としては、何か特別なアピールをしないのかと思われたようだ。でも、気にしなくていい」
「余計なことを言う必要はない。あれで良かった」
レーベルオード伯爵も問題はないとした。
「リーナにとっては初めての謁見だ。お世辞はいくらでも言えるけれど、媚を売っていると思われると困るからね。父上の言う通り、余計なことを言う必要はなかった。リーナはちゃんとできていたよ。安心していいからね」
「はい」
リーナは安堵の息をついた。
「レーベルオード伯爵、王太子殿下のところへ案内しても?」
ヘンデルが尋ねた。
「パスカル、リーナを頼むぞ」
「はい。ですが、茶会には出席できません。部屋まで案内するだけです」
「第四王子はどうした?」
「午前中は大学です。昼頃には戻る予定でしたので、確認しておきます」
「リーナ、一時間程度だ。黒鳥の馬車の話をしていればすぐだろう。できるだけ発言は控えろ。機嫌を取るような言葉を言う必要はない。何を言っても王妃たちは満足しない。無駄だ」
「はい」
リーナはパスカルと共に王妃のお茶会が開かれる部屋に向かった。
緊張してはいるものの、国王に謁見する時よりは不安が少ない。
しかし、パスカルは逆だった。
リーナが無事王妃の茶会を乗り切れるように、心の中で祈っていた。





