370 ジャスミンのパリュール
「では、国王陛下に謁見する時にはスズランのパリュールをつけるのですね」
パスカルは確認するように尋ねた。
「そうだ。ジャスミンのパリュールは別の機会にするといい」
読まれている……。
パスカルはそう思うしかなかった。
ジャスミンのパリュールはパスカルの妹であるリリーナのために作られた。
最初に作られたのは指輪で、パスカルがミレニアスに行った時、妹への贈り物として渡すつもりだった。
パルカルは立派な兄になるための勉強をしながら、妹に会える日を楽しみにしていた。
そして、兄としての深い愛情をあらわすためにパリュールにして贈ることを決め、同じデザインの宝飾品を少しずつ増やしていった。
ところが、レーベルオード伯爵家にリリーナが死んだという知らせが届いた。
パスカルは大きなショックを受けずにはいられなかった。
「リリーナは僕にとって愛そのものでした」
「パスカルが感じている苦しみの強さと悲しみの深さは、妹に対する愛の強さと深さだ。本当に愛していたからこそつらい」
父親の言う通りだとパスカルは思った。
「苦しみも悲しみも全て受け止めろ。それは妹への愛を受け止めることと同じだ」
愛は喜びや安らぎばかりを与えてくれるわけではない。苦しみや悲しみになってしまうこともある。
どのような形であっても、それは愛であることを忘れてはならないと父親は話した。
「愛の証として、ジャスミンのパリュールを完成させよう。お前の愛はジャスミンのパリュールと共にあり続ける。そして、子々孫々受け継がれ、守られていくだろう」
パスカルはジャスミンのティアラを作ることにした。
それによってジャスミンのパリュールは完成した。
愛はある。ずっと。受け継がれ、守られていく。
パスカルの心に安心が戻ったことを示すパリュールでもあった。





