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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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368 強い父親



 リーナは昼食後もマナーレッスンをした。


 実際に謁見式を想定した予行練習を行い、入室から退出まで問題がないかを確認した。


 そのあとはレーベルオード伯爵とお茶の時間を過ごすことになった。


 お茶会の予行練習をするためでもあり、リーナは王族付き侍女としてお茶を淹れる腕前を披露することになった。


「いかがでしょうか?」


 リーナはレーベルオード伯爵の好みを知らないため、ストレートで飲むことを想定したお茶を淹れた。


「お砂糖とミルクもあります。必要でしょうか?」

「このままでいい。リーナは座らないのか?」

「今は給仕中なので」

「予行練習なのはわかっているが、家族だろう? 自分の分の茶も淹れて座るといい」


 リーナは自分用のお茶をカップに注ぐと、ソーサーごと持ってワゴンからテーブルの方へ移動し、椅子に着席した。


 しばらくの間、二人は無言状態でお茶を飲んでいた。


 様子見ともいう。


 リーナは事前にレーベルオード伯爵がどんな人物かを聞けそうな者に聞いていた。


 とにかく優秀。エリート官僚。建国から続く名門の家柄にふさわしい貴族。人望も人気もある。しかし、冷たくて厳しい。恐れている者もいる。


 冷たくて厳しくて恐ろしいのに、人望も人気もあるのはどうして?


 リーナはそう思っていたが、実際にレーベルオード伯爵に会うことでなんとなくわかった。


 クオン様やセイフリード様と一緒かもしれない……?


 優秀で特別な人物だからこそ近づきにくい。


 そのせいで見た目の印象が強くなってしまい、長所や内面的な魅力が見えにくい。優しさも感じにくい。


 リーナはレーベルオード伯爵を見つめた。


 パスカルと同じ金髪碧眼。容姿端麗。パスカルは母親似で優しい印象がするのに対して、レーベルオード伯爵は冷たい印象だった。


「少しは私に見慣れたか?」


 レーベルオード伯爵が尋ねた。


「お父様はお兄様と色合いは一緒ですけれど、雰囲気が違います」

「パスカルは母親似だ」

「お父様はクオン様に似ています」


 思わぬ人物との比較にレーベルオード伯爵は驚いた。


 だが、そう言われた理由をすぐに思いついた。


「厳しい感じがするからか?」

「そうです。でも、クオン様は真面目で誠実な方です。お父様も同じような気がします」

「私や王太子殿下にひるまない女性であれば、大きな試練にも立ち向かえる勇気が持てるだろう」


 大きな試練……。


 リーナの表情が曇った。


「気になることがありそうだ。父親として力になりたい。ことによってはレーベルオードの命運にかかわるかもしれない。教えてくれないか?」


 リーナが気になったのはクオンとのこと。


 そして、クオンとの関係がどうなるかはレーベルオード伯爵家の命運にかかわることだと思った。


 リーナは椅子から立ち上がると、テーブルの側で土下座した。


「申し訳ありません! 謝罪しても許されることではないと思うのですが、謝罪するしかありません!」


 レーベルオードは突然の土下座に驚いた。


「謝罪する理由を説明してほしい」

「クオン様に恋人関係を解消したいと言いました! 足を引っ張るだけなので、お側を離れた方がいいとも言いました! 養女にしてくださったのに申し訳ありません!」


 部屋が静まり返った。


 リーナは強い叱責に備えて体を縮こまらせた。


「リーナ」

「はい!」


 リーナは気持ちを奮い立たせて返事をした。


「そのことはパスカルから聞いている」


 やっぱり……。


 レーベルオード伯爵家に関係しないわけがない。必ず話をしているはずだとリーナは思っていた。


 ところが、王都で会ったパスカルもレーベルオード伯爵もそのことについては何も言わなかった。


 それどころか、家族の一員として認めると言われた。


 リーナとしてはなぜなのか、まさかパスカルから何も聞いていないのだろうかと疑問に思っていた。


「王太子殿下は検討中だ。現状においては王太子殿下の非公式な恋人のままだと聞いている。間違いないか?」

「間違いありません!」


 リーナははっきりと答えた。


「そうか。恋人関係が解消になってもいい。気にするな」

「え?」


 リーナは目を見開いた。


「いいのですか?」

「恋人になったあと、やはりうまくいかないということで関係を解消するのはよくあることだ」


 予想外の言葉を聞いてリーナは困惑した。


「でも……クオン様は王太子です。だから……レーベルオード伯爵家にとっては喜べないことですよね?」

「自ら打ち明けたことを評価する。土下座する必要はない。着席しろ」


 リーナはおずおずと立ち上がり、椅子に座った。


「恋人関係は原則任意だ。両者の合意で成立するため、両者の合意がなくなった時点で不成立になる。だが、身分差がある場合は上位者に決定権がある」


 エルグラードは身分社会。上位者を尊重するというのが社会的常識になる。


 リーナとクオンの合意によって恋人関係が成立した場合、リーナの判断だけで恋人関係を解消することはできない。必ず上位者であるクオンの承諾が必要になる。


 クオンの承諾がない場合、恋人関係の解消は保留。意見相違の状態や喧嘩中というだけで、リーナは王太子の恋人のままになる。


 周囲も上位者である王太子を尊重するため、やはり恋人関係が継続中とみなす。


「王太子殿下の判断次第だ。結果が出るまで待つしかない」

「わかっています」

「この機会にはっきりと伝えておく。リーナを養女にしたのはパスカルと血がつながっているからだ。王太子殿下に寵愛されているからではない」

「養女になったのは国境を越える前です。調査前で、インヴァネス大公夫妻の娘かどうかはわかっていなかったと思うのですが?」

「インヴァネス大公一家が来訪中に調査した時、かなりの確率で間違いないということだった。でなければ、養女や縁談などの話が上がるわけもない。パスカルの血族を他の貴族に奪われるわけにはいかない。養女にして守らなくてはならないと判断した」


 お父様はお兄様を心から愛されている。だから私を養女に……。


 リーナはそう感じた。


「リーナは過去の経歴が足を引っ張ると思っているようだが、生まれつき名門貴族の令嬢であっても同じだ。多くの者に嫉妬され、誹謗中傷を受け、足を引っ張ろうとする者があらわれる。王太子殿下に選ばれた以上、避けることはできない」


 ……そうかも。


 レーベルオード伯爵が言うからこそ、リーナは余計にそう思った。


「王太子殿下との恋人関係が解消されても、レーベルオードは揺るがない。私がリーナを守る。安心していい」


 なんか……予想外です。


 リーナは父親になったレーベルード伯爵の強さを感じずにはいられなかった。


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