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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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367 当主の関心



 リーナは全ての食事を問題なく正しく食べた。


 レーベルオード伯爵もアゼリアたちも平静を装っていたが、内心では驚いていた。


 単にテーブルマナーを守って食べたというだけではない。


 どんな料理や味なのかに興味津々、美味しさに喜び、食事の時間そのものを楽しんでいることが見て取れた。


 食事中は本当の姿が出ると言われており、意識しなければ美しい印象を保ち続けることが難しい。


 リーナは食事中の印象も所作も非常に良く、食べ終わったあとの器やカトラリーも綺麗で文句のつけどころがなかった。


「問題なさそうだ」


 レーベルオード伯爵は最後の飲み物だけになるとそう言った。


「一通りは身についているようだ。しかし、食事の種類も食べ方も無数にある。これはほんの一部にしか過ぎない。これからも勉強を続けるように」

「はい。食べることは大好きなので、喜んで勉強します!」


 リーナは嬉しそうに答えた。


 すると、レーベルオード伯爵が眉を上げた。


「申し訳ありません! 好き嫌いに関係なく勉強します!」


 リーナは慌てて言い直した。


「食べることが好きなのは悪いことではない。ただ、女性はドレスのサイズを気にすることが多い。あまりそういったことは言わないと思っただけだ」


 レーベルオード伯爵は注意したつもりはなかった。


 パスカルやリーナの母親であるリリアーナが少食でドレスのサイズを気にしていただけに、その影響を受けていないようだと思っただけだった。


 だが、レーベルード伯爵の整った容姿は冷たさを強調してしまった。


 ただでさえ立派なドレスで高価そうなのに、サイズが変わったら余計にお金がかかりそう!


 そう考えたリーナは焦った。


「ドレスのサイズが変わらないように運動します!」

「世の中の女性は細い体を尊ぶようだが、私は違う。重視すべきは健康だ。健康であればドレスのサイズは関係ない」


 レーベルード伯爵は自らの考えを伝えた。


「リーナはこれまで仕事をしていた。王宮は広い。適度な運動にもなっていただろう。だが、この屋敷では違う。仕事がないために運動量が減るだろう」

「レーベルオード伯爵閣下」


 リーナが呼びかけると、レーベルオード伯爵はすぐに不機嫌な表情になった。


「違う。私は父親だ。家族を閣下と呼ぶのはおかしい」


 リーナははっとした。


「申し訳ありません、お父様」

「質問か?」

「そうです。私はどの程度お屋敷を自由に歩くことが可能なのでしょうか? 立ち入り禁止の場所があれば、教えていただきたきたいのですが?」

「父親にはもっとくだけた言葉でいい。遠慮なく話しかけるのが家族だ」


 難しいです……。


 レーベルオード伯爵の威圧的で冷たい雰囲気のせいで余計にリーナはそう思った。


「立ち入り禁止というほどではないが、常識的に遠慮すべき場所はある。個人的な部屋は使用者の許可を取れ。公式な部屋への不必要な出入りも控えるべきだが、勉強のためなら構わない。むしろ、今は積極的に屋敷の中を見て回り、勉強すればいいだろう」

「わかりました」

「西館は住み込み専用の場所になっている。行かないように」

「えっ!」


 リーナは召使いたちが使用するような場所も見てみたいと思っていた。


「このお屋敷で働いている者がどのような場所で生活しているのか知りたいのですが?」

「知ってどうする?」

「どの程度の待遇なのか確認します。自分の目で見てみないと、十分かどうかがわかりませんよね?」


 レーベルオード伯爵は言葉が出なかった。


 仕えてくれる者の待遇についてはもちろん考えている。配慮もしている。


 問題はないかを確認し、問題ないという報告を受けている。


 何かあればその都度指示を与え、適切に対応しているつもりだった。


 しかし。


 召使いの部屋を自分の目で見たことはない……。


 ウォータール・ハウスは何度も改築や改装を繰り返しているが、その多くはレーベルオード伯爵家の者や客のためのもので、召使いたちのためのものではない。


 大丈夫なのか? 十分なのか?


 建物の老朽化のせいで劣悪な環境になっているのに気づかず、忠誠の証として我慢をさせているのであれば問題だとレーベルオード伯爵は思った。


 レーベルオードは忠誠を誓う者に厚く報いるのが家訓であり、忠誠の対価として当然だという意識があった。


「……どうしても見たいのであれば、特別監査として許す。その代わり、屋敷内を歩く時は必ず供を連れていけ。最低二人だ。常に自らの安全を確保することを最優先するように」

「このお屋敷は安全ではないのでしょうか?」

「広いからこそ目が届きにくい場所もある。思わぬ場所が老朽化しているかもしれない。屋敷の者が万全を期しているだろうが、レーベルオード伯爵家の女性がここに住むのは久しぶりだ。慎重でありたい」

「わかりました」


 あとで家令に西館と屋敷の者の待遇について報告させよう……。


 リーナの言葉は、レーベルオード伯爵の関心がウォータール・ハウスとレーベルオードの者に向くきっかけになった。


 この機会に総点検をするか。屋敷も、待遇も、警備もだ。


 レーベルオード伯爵は当主としてウォータール・ハウスの全てにおいて万全を期すことをあらためて決意した。


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