357 王家の会議
王族会議は国王の予想通りの展開になった。
まずは、息子四人がぞれぞれの立場からミレニアス訪問における報告を述べた。
全員で共通しているのは、ミレニアスがエルグラードを軽視しているという部分だった。
「私は非常に落胆しています。ミレニアスは身分差別が厳しい国だからこそ、エルグラード王族に最高の歓待をすると思っていました。インヴァネス大公が来訪した時にもエルグラードは歓待しています。その返礼さえできないというのはおかしいではありませんか! 友人であるフレデリック王太子もエルグラードへの対応を嘆いていました」
エゼルバードがそう言うと、続けてレイフィールが発言した。
「私も同じく落胆している。ミレニアスには危機感がない! どのようなことがあっても戦争にはならないと考え、エルグラードの意見を尊重しない。話し合いで解決しないのであれば、武力行使も含めたより強い手段を取る必要があるかもしれない」
「僕もそう思う」
セイフリードが同意した。
「ミレニアスは大きな勘違いをしている。これまでの経緯を考えると、言葉で正すのは無理だ。ミレニアスを滅ぼすか王を暗殺したほうが早く解決する」
セイフリードの提案に、父親は眉をひそめた。
王族会議は家族会議でもある。
遠慮なく本音で話していいとはいえ、戦争や暗殺という言葉が未成年の息子から出るのはどうなのかと思うしかない。
「フレデリック王太子はエゼルバードの友人だけあって、立場をわきまえている。新たな王として十分な能力があるかどうかはともかく、エルグラードに対して従順なミレニアスを作り上げるのに利用できる」
「今のミレニアスは反抗的ですが、フレディが王になれば変わります。今回の訪問でも、フレディはさまざまに配慮してくれました。万が一に備えての避難もしましたが、フレディは父親に逆らっても私たちの安全を確保しようとしてくれました」
「大体はわかった。ミレニアスへの対応は宰相たちの意見も聞いて考える」
「まだです」
エゼルバードが発言した。
「父上はミレニアス王と特別な約束をしているとフレディから聞きました。どのような約束なのでしょうか?」
エゼルバードは保身のため、あえて密約ではなく約束という表現にした。
「私もそのことについては説明を求める。兄上とキフェラ王女を婚姻する約束だと言うのは本当なのか? だとしたら、断固反対だ!」
「僕も説明を聞きたい。あの女は兄上の相手としてふさわしくない!」
国王は息子達に睨まれる中、前体制の悪しき部分を可能な限り取り除くためには、ミレニアスの協力が必要だったことを話した。
「他にも私たちの知らない密約を他国と交わしてはいないだろうな? あるのであれば、今すぐ明らかにすべきだ! でなければ、王家にとって極めて由々しき問題になる!」
国王は嬉しくも悲しくなった。
息子が立派なのはいいが、父親としても国王としても糾弾されたくはなかった。
「一応はなかったように思う」
「一応だと?」
「詳しくは宰相に聞かなければわからない」
誰から見ても、国王が得意とする逃げ口上だった。
「常々思っているが、宰相に頼り過ぎだ!」
「贔屓し過ぎです」
「国王であれば自ら把握しておくべきことだ!」
「宰相ばかりが優遇されると感じる者が多くいる」
国王は自分に集まる視線と言動に痛みを感じた。
「私がどれほどの苦労をしてここまで来たか……勝手なことばかり言うな!」
国王は声を張り上げた。
「私は王権を取り戻すために自分を犠牲にした。政略結婚も受け入れた。妻たちを尊重し、息子たちには愛情を注いだ。王家という特殊な家の事情もあるため、愛情が伝わりにくかったかもしれない。だが、父親として、国王として懸命に努力して来た。だからこそ、今の王家、エルグラードがある。お前達にも見習ってほしい」
国王の言葉は心からのものだったが、息子たちには理解されなかった。
「見習わない。私は自らの方法でエルグラードを導いていく」
「兄上の言う通りです。時代も状況も違います」
「父上はかなりの粛清をしてきた。兄上にもそれを見習えというのか?」
「新しいエルグラードを作るのに邪魔なのは現国王とその側近だ。粛清したほうが早いが、高齢だけに寿命で解決しそうでもある」
父親は末息子を睨みつけた。
「セイフリード、発言と暴言は違うとわかっているのか?」
「父上は一人しかいない弟を切り捨てた。生母の王太后も幽閉した。自分にとって都合の悪い存在は家族でも容赦しなかったということだ。見習えと言ったのは父上だ」
深いため息をついた国王は時計に視線を移した。
「そろそろ時間だ。昼食会がある。王妃たちを待たせないためにも、ここまでにする」
「まだ早い」
「女性たちはいつも遅れて来ます」
「王族会議を早く終わらせたいという魂胆が明らかすぎる」
「優柔不断な国王だが、逃げ足と死刑執行のサインは速いという噂がある」
国王は立ち上がった。
息子たちが何と言おうが、国王の退席を阻むことはできない。
そして、国王が退席すれば、王族会議は終わるはずだった。
「移動する」
「私はあとから行く。エゼルバード、レイフィール、セイフリードは残れ。兄弟だけで話をする」
「喜んで」
「わかった」
「話しやすい」
エルグラード国王の座につく父親は苦々しい表情で退室した。





