354 前途多難
「私からもキルヒウスに直接話したいことがある。リーナの件だ」
クオンはリーナの素性調査の結果、インヴァネス大公夫妻の娘だと思えるような内容や物的証拠があったにもかかわらず、ミレニアス王が本人だと認めなかったことを説明した。
「王族の名前を語った偽者としてリーナを捕縛しようとさえした。ありえない!」
クオンもエルグラードも、突然判明したリーナのミレニアス人疑惑に対して困惑したが、子どもの時に誘拐された本人には罪がないこと、両国の関係についても考え、かなりの配慮をした。
だが、ミレニアスの態度はエルグラード側の配慮を無意味にしたばかりか、リーナに対してもエルグラードに対しても関係を悪化させるものでしかなかった。
そのようなことを平然とするミレニアス王は信頼できない人物であり、交渉する意味がないと判断したことをクオンは話した。
「内々に伝えておく。リーナを妻にするつもりだ」
キルヒウスは驚愕した。
「インヴァネス大公女ではなくてもか?」
「ミレニアス王が認めない以上、インヴァネス大公夫妻の娘であることを公表することはできない。レーベルオードの養女になっても、孤児院で育った元平民の経歴は消せない。そうだろう?」
「その通りだ。養女にする時、一部の貴族に経歴を知られてしまっている」
「かなりの反発があるだろう。それでもリーナを妻にする」
「国王に話したのか?」
「これから話す」
「不可能に近い気がするが?」
クオンはキルヒウスを真っすぐに見つめた。
「クルヴェリオンとしても、王太子としても熟考した。愛する女性を妻にするのは私の信念だ。絶対に譲れない」
「王太子の忠実な臣下として助言する。国王との話し合いは冷静でなければならない。こちらの管轄権を失われないようにしなければならない」
「わかっている。管轄権は絶対に渡さない!」
強い感情をあらわにするクオンを見て、キルヒウスは驚くしかなかった。
ついに来るべき時が来たか……。
王太子が愛する女性を妻にするというのは子どもの時から宣言していたことであり、その信念は全く揺らいでいない。
多くの人々は、王太子が必ず王太子妃にふさわしい女性を選ぶと信じていた。
そして、選ばれたのはリーナ・レーベルオード。
性格面で見ればともかく、出自と経歴には大問題がある。
つまり、王太子は王太子妃にするのが最も困難な女性を選んでしまった。
ようやく結婚相手を決めたのはいいとして、あまりにも前途多難だ……。
クルヴェリオンを全身全霊で支え守ることを使命としているキルヒウスは、深いため息をつかずにはいられなかった。





