353 王都帰還
エルグラードの王太子と弟王子たちが王都ヴェリオールに帰還した。
帰還予定日は事前に公示されており、王族や外交使節団を一目見ようとする人々が沿道に溢れた。
外交使節団の馬車が王都の門をくぐったあとは王宮までのパレードが行われ、王族の姿が王宮に到着した姿を見て人々は感激した。
特に官僚たちの感激度は強く、王太子クルヴェリオンがエルグラードにとっていかに重要かつ唯一無二の存在であるかを実感していた。
王宮に到着後、謁見を済ませたクオンは執務室で緊急案件について指示を出し、帰国を祝う大夜会に出席した。
今回の外交使節団がどのような成果を上げたのは関係なく、エルグラードの王子四人が兄弟揃って行動したこと、他国へ訪問して無事戻ったことが何よりも大きな成果とされ、大夜会はかなりの盛り上がりだった。
クオンは一時間で大夜会を退席し、執務を再開するために執務室に戻った。
すると、そのタイミングで留守番役のキルヒウスから思わぬ報告を受けた。
「辞職願が多く提出されているだと?」
「王太子にも王太子府にも手落ちはない。他の省庁からの抗議があったため、進退について王太子の判断を仰ぐことになった」
クオンは国王代理としての王太子兼内務統括としてエルグラードの内政に対する決定権がある。
成人した後は徐々に決定数を増やしていたが、現在はほとんどがクオンを決定しており、国王は事後承認、国王府も確認作業をするだけになっていた。
今回、ミレニアスへの訪問期間が長いこともあり、クオンは本来の決定権を持つ国王や国王府が内政問題について対応すればいいと考えており、どのような決定や対応をしたかは帰国後に確認するということを通達していた。
だが、ずっと王太子と王太子府に任せていた国王と国王府の対応力が予想以上に低かった。
状況を把握するための時間も対応を考えるための時間も必要だけに、ほとんどの案件が保留。
緊急事態として宰相と王太子の留守番役であるキルヒウスが各自の権限でできる限りの対応をした。
しかし、王族の承認や指示がない状態では本当の意味での承認や指示にはできない。
執務を天才的にこなす王太子の不在はあまりにも大きかった。
その結果、大きな混乱や遅延、その他もろもろの責任について、王太子府と各省庁長を結んでいる担当者への風当たりが強くなり、国王府からも中央省庁からも抗議があった。
そこに宰相府が間に入り、王太子府の担当者の責任及び進退については王太子の判断を仰ぐことになったという説明が行われた。
「ふざけるな! 責任を追及されるべきは父上や国王府の方ではないか!」
「国王に文句を言うわけにはいかない。反逆罪になる。国王府に対しても同じようなものだ。国王府も王太子府に責任を押し付けてきた」
クオンは煮えたぎるような怒りを感じずにはいられなかった。
だが、国王府の対応らしくもあり、中央省庁に責任を押し付けるわけにもいかない。
宰相府が間に立ったのは、王太子さえ戻ればこれまで通りでいいということで落ち着くことがわかっているからでもある。
せっかく強化した王族の権限を無視して臣下が勝手に国政を動かせないからこその問題であり、次代の王である王太子への権限移譲を否定する流れにはしたくないからであるのもわかっていた。
「わかった。この件について、王太子府の担当者に対する責任は不問にする。臨時対応がうまくいかなかったのは個人の責任でもなければ王太子府の責任でもない。王族府がうまく連携できなかったという理由で決着させる」
「英断だ」
臨時対応や緊急事態になる恐れは常にある。
その度に個人の責任が追及されては人的損失になるばかりか組織の改善もできない。
国王の執務対応力が王太子よりもはるかに劣るのはわかっていたことで、それを支える国王府の上位者の無能ぶりもはっきりとした。
この件を活用して王太子や王太子府の存在がより重要であることを知らしめることができるとキルヒウスは思っていた。





