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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第四章 帰国編
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348 水の神殿



 レストランでの昼食を終えたあとは水の神殿に向かうことになった。


 ヴォルカーは昨日よりもあらたまった服装をしており、正面出入口にいる警備の者に声をかけた。


「書簡を届けに来た。昨日、先触れをしたため、特別な書簡を届けに来る使者が来るという話が伝わっていると思うのだが?」


 警備の二人はじろじろとヴォルカーを見て言った。


「使者が来るとは聞いているが、どう見ても一般人にしか見えない」

「神殿の中に入るため、嘘をついているのではないか?」

「嘘ではない」


 ヴォルカーはそう言うと、書簡を二つ取り出した。


「神殿長宛と神官のマーリス殿宛だ。宛名と封蝋を見せるため、確認して欲しい」


 ヴォルカーは書簡にある宛名と封蝋を警備の者達に確認させた。


 本物の書簡と使者だとわかり、警備の二人はすぐさま背筋を伸ばしたあと、礼儀正しく頭を下げた。


「最近、理由をつけてこちらから中に入ろうとする者が多いのです。失礼をお詫びいたします」

「わかって貰えたのであればいい。中に入ってもいいだろうか? それとも、案内役が来るまでここで待つのだろうか?」

「神官に使者殿が到着されたことをお伝えしてまいります。ここではなく、中に入ったところでお待ちください」

「私以外にも見届け役の女性が二人いる。神殿長とマーリス殿に直接書簡を渡したかどうかの証人だ。同行させる必要がある」

「わかりました。どうぞお入りください」


 リーナとメイベルは見届け役であることを知らなかったが、ヴォルカーに任せることにした。


 昼間だというのに、神殿の中は扉や窓が締め切られているせいで酷く暗かった。


 隙間から漏れ出る光と出入口のところにある小さな灯りしかなく、奥の方がよく見えない。


「暗すぎるわね。それに埃っぽいし。窓を開ければいいのに」


 メイベルがつぶやくようにそういうと、ヴォルカーも相槌を打った。


「そうだな」


 しばらくすると、灯りを持った者が来た。


 神官服を着ているため、水の神殿の神官だと思われた。


「ご案内します。どうぞ、こちらへ」


 三人は応接間のような部屋についた。


 ソファやテーブルはない。部屋にあるのは年代物の木の椅子だけで、円を描くように置かれていた。


「こちらでお待ちください」

「この椅子には座ってもいいのだろうか?」

「はい。ですが、上座は神官の席になります。下座にお座りください」


 椅子に座って間もなくすると、部屋には先ほどの案内役と共に神官たちが大勢入って来た。


「よく参られた。使者殿は水の大神殿から来られたのだろうか?」


 席を立ったヴォルカーは神殿長をじっと見つめた。


「水の神殿長はかなりの高齢だと聞いている。貴殿が神殿長だろうか?」

「神殿長代理だ。私が書簡を受け取る」

「神殿長に直接渡すよう言われている。いつなら神殿長に会えるだろうか?」

「わからない。神殿長は特別な部屋で祈りを捧げている。邪魔をすることはできない」

「特別な書簡を持つ使者でもダメだろうか?」

「使者殿の役目は書簡を届けることのはず。神殿の判断に口を出すべき立場にないと思うが?」

「では、書簡は渡せなかったと報告する。その上で、書簡を代理の者にお渡ししてもいいかを確認することになるだろう。結果が出るのをお待ちいただきたい」


 ヴォルカーの言葉に神官達がざわついた。


「もう一つ書簡がある。神官のマーリス殿はおられるのだろうか?」

「マーリス」

「失礼」


 後ろの方にいた若い神官が前に出て来た。


「私がマーリスです。どなたからでしょうか?」

「書簡を読めば書いてあるかもしれない。内容については一切知らされていない」

「わかりました。読んで確認します」


 ヴォルカーはマーリスに書簡を手渡した。


「せっかく来ただけに、水の神殿で祈りを捧げたい。マーリス殿に依頼したいのだが、可能だろうか?」


 マーリスは少し間を置いた後、静かな口調で答えた。


「私は序列の低い神官です。祈りを捧げるということであれば、序列の高い神官に依頼した方がいいのではないかと思うのですが?」

「名前を知ったのも縁だろう。マーリス殿に依頼したい」

「わかりました。では、どうぞ」


 マーリスが案内したのは、小さな祭壇がある部屋だった。


「こちらで祈りを捧げます」

「えっ、ここで?」


 驚きの声をあげたのはメイベルだった。


「この祭壇はとても小さいわ。もしかして、お布施が影響するの?」

「この神殿では神官と一般の方が共に祈りを捧げる場合、祭壇室と呼ばれる部屋を使用します。ここが祭壇室です」

「この神殿にはこういった祭壇しかないの?」

「最も大きな祭壇がある場所で祈りを捧げることができるのは神官だけです。一般の方は一切立ち入りすることができませんので、こちらの祭壇室になります」

「依頼すれば、あとで神官が祈ってくれるという方法ではないのか」

「神殿によって方法は様々ですが、こちらでは一緒に祈ります。一般の方が祈るだけではなかなか神にその祈りが届かないので、神官が共に祈ることで神に届くようにするという考え方になります」

「なるほど」

「序列の低い神官でも届くの?」


 メイベルの質問に、マーリスは微笑した。


「どうしても神に届けたいという想いが強いのであれば、序列の高い神官に依頼すべきではないでしょうか?」

「でも、お金がかかるのでしょう? 裕福ではない者は祈りが届かなくても我慢するということなのかしら?」


 マーリスはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。神は祈る者全ての声に耳を傾けます。ですが、神への信仰心が強い者や神への忠誠を誓う神官の方が届きやすいでしょう。神官に依頼するかどうかは貴方次第ですが、祈りが届くかどうか不安だということであれば、神官と共に祈ればいいでしょう」

「メイベル、ケチ臭く見える。気にするな」

「でも、王都の神殿で依頼した時、物凄い金額がかかったわよ」

「神殿に依頼を頼んだことがあるのか」

「結婚した時にね。末永く夫婦円満であるように祈願したのよ。支払ったのは夫だったけれど、びっくりしちゃったわ!」

「個人的な意見ではありますが、婚姻や商売に関わる祈りはどこの神殿でも相応の対価を求められます。今でこそヴィーテルは大都市ですが、この神殿は古き時代からあります。良心的な対価だと思われますので、心配されることはないかと思います」

「他人任せではどうかと思うわ。自分でもしっかり祈りましょう」


 メイベルが小声で言うと、リーナはしっかりと頷いた。


「はい!」


 マーリスが説明したように、神は祈る者全ての声に耳を傾けてくれる。


 神官のように毎日祈りを捧げているわけではないが、強く念じればきっと届くだろうとリーナは思った。


 どうか無事に王都に戻れますように。水に関わる災難から身を守れますように。


 そして、


 クオン様たちのこともお願いします。無事、王都に戻られますように。水に関わる災難から身を守れますように……。


 リーナは一生懸命祈りを捧げた。


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