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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第四章 帰国編

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342 仕事復帰



 外交使節団がミレニアスを訪問中、エルグラード国境付近では軍による治安回復作戦が実行されていた。


 大規模な人員を使った調査により、疑わしいと思われる場所を徹底的に捜索。犯罪者の拠点を発見し、潰すことに成功した。


 しかし、最も頭が痛い部分については解決していない。


 それはミレニアス内にある犯罪者の拠点を潰すこと、ミレニアスからの密入国者を防ぐことだった。


 軍の作戦が成功して犯罪件数が減少しても、それは一時的なことでしかない。


 現在いる大規模な軍が引き上げれば、徐々にまた密入国者が増え、犯罪件数が増加してしまうと予想されていた。


「ミレニアスとの交渉は決裂した」


 クオンの言葉を聞いたエネルト将軍の表情が険しくなった。


「開戦間近と受け取ってもよろしいのでしょうか?」

「現段階において、開戦準備は必要ない。父上からの指示は来ているか?」

「ミレニアスの情勢を注視、王太子殿下や王子殿下の安全に関わる事由があれば、いつでも国境を越えて進軍せよという命令が届いております」

「そうか」


 クオンは頷いた。


「ミレニアスは私を歓迎するどころか、絶対に頷かないような提案しかしなかった。その上、最終判断は国王がするだけに、提案を持ち帰ればいいと言ってきた」

「なんと!」


 エネルト将軍の顔色が一気に変わった。


「王太子殿下を伝令のように扱うなど許されることではありません! 報復を検討されるべきではありませんか?」

「父上と話し合って決める。だが、武力行使だけが選択肢ではない。経済制裁という方法もある。軍は自重するように」


 エネルト将軍はため息をついた。


「王太子殿下と王子殿下をお守りすることを任され、兵の士気が極めて高くなっております。この士気が意図しない武力行使につながらないよう注意が必要です」

「軍には防災活動に従事してもらう。レイフィールから説明しろ」

「わかった。今の時点でミレニアスへの対応がどうなるかはわからない。だが、国内における対策は可能だ。そこで防火地帯を作ることにする」


 防火地帯というのは、森林の一部の木々を伐採することで火災が燃え広がらないための空間で、火災の際に避難する場所や消化活動用の水源を確保するための場所でもある。


 ユクロウの森は広大で、森林火災が発生すると大規模な災害になってしまう恐れがある。


 それを未然に防ぐための防火地帯を設置し、伐採した木で国境線を明示する柵を作ることが説明された。


「ミレニアスとの国境線は非常に長くあります。その全てに防火地帯や柵を設置されるおつもりですか? かなりの期間が必要になってしまいますが?」

「一部だけだ。どの辺りが有効そうかはミレニアスで収集した情報から考えた」


 広大なユクロウの森は犯罪者や密入国者にとって格好の隠れ場所になっている。


 ミレニアス側で犯罪者の拠点が多いのはローズワース領で、違法な薬草の栽培が盛んに行われている。


 それらを焼き払う作戦を実行すると、延焼で森林火災が発生する可能性が高い。


 そこで事前に防火地帯を設置しておくことが説明された。


「ミレニアス王は兄上とキフェラ王女の縁談に付属する案としてローズワースの共同統治権を盛り込んだ。つまり、ミレニアス側はローズワースに犯罪者の拠点や違法薬草園が多いことを知っている。だというのに、放置しているということだ」

「ありえません!」

「インヴァネス大公は犯罪者の撲滅に協力的な姿勢を見せている。犯罪者の拠点や違法薬草園がなくなれば、国境付近の治安が改善する。エルグラードからインヴァネス大公領へ行く観光客が増えると考えている」

「なるほど」

「防火地帯を作るだけだと、違法薬草園の焼き討ち作戦をすると言っているようなものだろう? そこで国境線を明確にする柵を設置するため、森林の一部を伐採しているということにする。嘘ではなく本当だ。その結果、防火地帯もできたというだけだ」

「読めました。さすがです」


 エネルト将軍はこれから実行される作戦について理解した。


「言っておくが、犯罪者の拠点や違法薬草園に火をつけるのはエルグラードではない。自然災害だ。あるいは犯罪者自身かもしれない。証拠隠滅のためだ」

「そうだと思われます」


 エネルト将軍は頷いた。


「密入国者のせいかもしれません。たき火などから森林火災になることもあります」

「そうだな。人為的な原因は十分あり得る。だが、森林火災が発生してもエルグラードのせいではない。犯罪者や密入国者を取り締まらないミレニアスの責任だ」

「おっしゃる通りです。ミレニアスの責任です」

「作業に当る部隊を選出して派遣しろ。民間作業員ではなく軍を派遣するのは、犯罪者や密入国者と遭遇する危険を考慮した結果だ」

「民間人をむやみに危険にさらすわけには行きません。当然の判断です」

「付近で発見された犯罪者や密入国者を発見した場合は徹底的に取り締まれ。エルグラード内での犯罪行為を許すな!」

「わかりました」

「このあと、軍務統括として軍議を行う。兄上、何かあるか?」

「軍の統括はレイフィールだ。ユクロウの森を視察して現地の状況もわかっている。任せたい」

「わかった。ところで、私は王都に帰還する必要があるだろうか? このままレールスに留まることもできるが?」


 レイフィールがレールスに留まれば、高い士気を維持することができ、駐留する軍の管理もしやすくなる。


 だが、クオンはレイフィールを王都に帰還させるつもりだった。


「レイフィールも戻れ。お前がいることで開戦の憶測が広まってしまうと困る」

「それもそうか。必要に合わせてまた来ることにしよう」

「エネルト将軍、レールス付近には多くの兵が駐留しているが、そのせいでレールスの行政や経済に問題が出ていないか?」

「その件に関しては、レールス行政官からご説明があるかと思います」

「軍で物資を確保するあまり、市民生活に支障は出ていないだろうな?」

「軍の物資については広範囲から補給を確保しておりますので、レールス一帯が物資不足になることはないと思われます」

「他になければ行政官と話す」

「では、レールス行政官と交代します」

「レイフィール、お前は同席しなくて大丈夫か?」

「軍議を優先する。何かあればあとで教えてほしい」

「わかった」


 行政官によると、レールス周辺は大軍が駐留することによって発生した特需のせいで、異常な好景気に沸いていることが判明した。


 常識的に考えれば、国境に大軍が駐留するのは戦争の前触れではないかと思われ、人々に不安が広まる。


 しかし、今回は外交訪問団の護衛と治安を回復するための大規模な作戦を展開するためであることが軍の広報部隊によって布告されており、人々に安心感が広まった。


 驚くほどの特需と好景気によって、住民は軍の駐留を大歓迎していることが報告された。


「特需のおかげで、税収も上がりそうです」

「マイナス要因はないということか?」

「街道が混雑し、輸送物資に関するトラブルが増加しています。また、警備隊と軍が管轄権や優先権などを巡って対立しています。どれも大きな問題にはなっていませんが、頻繁に起きているのは懸念すべき点かと」

「わかった。改善策を検討する」

「はい」


 クオンはそのあとも会議や謁見を行った。


 外交使節団の帰国日に合わせて王都から伝令や官僚が来ており、報告したり指示を仰いだりする者が列をなしている状態だった。


「休憩入れる?」


 ヘンデルが心配して確認した。


「必要ない」


 クオンは深夜遅くまで働き続けた。



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