336 庭園散歩
昼食後。
エゼルバードは疲れたために休憩。
フレデリックたちも適当に過ごすことになり、リーナとメイベルは庭園の方を散歩することになった。
その護衛を担当するのはアージェラスの王子アベルだった。
「アベル王子殿下、そちらの方々は……」
目元以外の全身を隠した黒装束の者が並んでいるのを見て、メイベルは恐る恐る尋ねた。
「私の護衛です」
「では、アージェラスの護衛騎士の方々でしょうか?」
リーナが尋ねると、アベルは首を横に振った。
「いいえ、護衛兵です。アージェラスにおける騎士は、領主の称号です。男爵の下にある領主の階級になります。騎士が王族の護衛を務めることは基本的にありません」
「そうだったのですか。私は身分の高い護衛のことを騎士というのだと思っていました」
「エルグラードとアージェラスでは様々に違いがあります。エルグラードでは王族を守る者を騎士に任命しますが、アージェラスではそのようなことはしません。アージェラス王族を守るのは護衛兵です」
「勉強になります」
「護衛の勉強はここまでにしましょう」
アベルは護衛兵に視線を移した。
「四名だけ残りなさい。それ以外は目立たぬように散開、安全を確保しなさい」
四名を残し、護衛兵たちは無言で立ち去った。
「素早いのですね」
メイベルは護衛兵の動きの速さに驚いていた。
「どうして返事をしないのでしょうか? それが普通なのですか?」
リーナは無言だったことに興味を持った。
「目元以外を隠しているのは、護衛の素性を隠すためです。声を発しないのもそのためです」
「どうして素性を隠すのですか?」
「さまざまな任務をこなすためです」
「情報収集とか?」
「そうです。レーベルオード伯爵令嬢、散策の時間がなくなりますが?」
「すみません!」
午後の庭園散策が始まった。
庭園の中にある休憩用の建物で、フレデリックとハルヴァーはお茶を飲んでいた。
「遅かったな」
フレデリックとハルヴァーはリーナたちが休憩を取りそうな時間に来たつもりだったが、リーナたちはなかなか休憩用の建物まで来なかった。
「たいして面白いものなどないだろう。くまなく歩き回っても、無駄に体力を使うだけだ」
「かなり楽しんでいました」
アベルの言葉に、フレデリックは眉をひそめた。
「ハルヴァー、新しい趣向の庭でも追加されたのか?」
「知らない」
「ブランコやシーソーなどの遊具が設置された庭がありました」
フレデリックは呆れるような表情になり、ハルヴァーは大笑いした。
遊具が設置されている庭は、子供のためにある庭。
その庭をリーナたちが見つけた。
楽しんだと言う以上、遊具で遊んだのは間違いなかった。
「子どもでもあるまいし、そんなもので遊んでいたのか!」
「通りで遅いはずだ!」
「サイズは大人用でした。久しぶりに乗りました」
アベルがそう言うと、フレデリックとハルヴァーは驚愕の表情になった。
「アベルもブランコに乗ったのか?」
「それともシーソーか?」
興味津々の二人に、アベルは表情を変えることなく答えた。
「両方です。かなりの古さでしたので、安全確認をするために乗りました」
単純に遊ぶためではなく、安全性を確認するためという正当な理由だったが、フレデリックとハルヴァーは腹を抱えて笑い続けた。
その様子を見たリーナは申し訳ない気持ちになった。
「アベル王子殿下、申し訳ありません。私が乗ってみたいといったばかりに……」
「庭園を楽しむための散策です。興味を引かれるものがあったのは幸いでしょう。あの二人は下らないことで笑います。気にする必要はありません。席にどうぞ」
着席したリーナの前にお茶と菓子が用意された。
しばらくはここで風景を楽しみながら休憩するはずだったが、楽しい話題がほしいフレデリックやハルヴァーから質問責めにあった。
「あっ!」
突然、リーナは遠くに見える道を疾走する馬がいるのを発見した。
「馬が走っていきました。伝令でしょうか?」
「騎馬の数は?」
「三です。でも、また……追加で二、合計で五騎です!」
「ルーシェかもしれない。そうなると私は戻らなければならないな」
ハルヴァーがそう言った。
「俺も戻る」
「私も戻ります」
フレデリックとアベルがそう言ったため、ハルヴァーの視線がリーナに注がれた。
「リーナはどうする?」
「城に移動させればいい。適当な部屋で遊ばせておけ」
「何か退屈を紛らわせるようなものがありますか?」
ハルヴァーは少しだけ考えた後に答えた。
「子ども用の遊戯室がある。そこに放り込んでおけばいいか?」
「それでいい」
「では、それで」
子ども用というのがポイントね。
メイベルは心の中でひっそり思った。





