334 今後の判断
ミレニアス王との会談後、クオンはすぐにリーナを呼び寄せるように命令した。
だが、リーナがエゼルバードと共に外出したこと、その許可をパスカルが出したという報告を聞き、パスカルが戻って来るのを待っていた。
「なぜ、リーナを外出させた? セイフリードの側に置くはずだっただろう?」
「第二王子殿下から内密の話がありました。ミレニアスがリーナを捕縛するかもしれないという情報でした」
クオンだけでなくヘンデルも驚いた。
「なぜ、すぐに報告しなかった?」
「そうだよ! めちゃくちゃ重要なことじゃないか!」
「確定情報ではありませんでした。曖昧な情報を伝えれば、王太子殿下がミレニアスに対する不信感を強めます。冷静に交渉するためにも、私の方で対処しました。もし確定情報であれば、第二王子殿下も直接王太子殿下にこの情報を伝えていたはずです」
「リーナの安全は確保されているのか? 護衛は十分につけたのか?」
「第二王子殿下の外出には多くの護衛がついています。情報提供者であるフレデリック王太子とローワガルン大公世子も一緒です。遠乗りと森の散策ということで、ローワガルン大公家が所有するアンガー城に向かいました」
「さすが第二王子。ローワガルンの治外法権を利用するつもりだね」
ヘンデルが感心したような表情を浮かべた。
「アンガー城とその周辺の森は全てローワガルン領も同然だ。治外法権を示すための柵もあるから、敷地内に入れば意図的だということになる」
「ローワガルンとことを構えるようなことはしないということで、アンガー城に向かわれたようです」
「そうか。チューリフよりも安全そうだ」
「パスカルが戻る前に帰国準備をする指示を出した。エルグラードの王太子を激怒させた以上、午後の会談も夜会も中止。俺の方から宰相に伝令を送っとくよ。ミレニアスが強硬手段を取るかもしれない可能性が高まる。パスカルの方で手を打っているよね?」
パスカルは力強く頷いた。
「もちろんです。エルグラードとの戦争を避けたいと思っている者が、無事帰国できるように協力してくれます」
「王命に背ける者がいるの?」
「それしか方法がないということであれば。但し、エルグラードへの亡命と特別な庇護を与えることが条件になります」
「まあ、そうなるよね。ミレニアスにいたら反逆罪は免れないし。で、誰が味方してくれるの?」
「王宮騎士団の副団長と国軍総司令官のバッフェル元帥がこちらに対峙するように見せかけつつ、チューリフ脱出を手伝ってくれます。外務大臣も味方で、派遣される交渉役の方に手を回してくれます」
「ミレニアス王を捕縛しちゃった方が早く片付きそうなぐらいなんだけど?」
「チューリフにはインヴァネス大公とアルヴァレスト大公が滞在中です。王の捕縛を二人の大公が見過ごすわけがありません」
「まあ、今の不良王太子には力がない。新王になっても、あっという間に引きずりおろされそうだよね」
「アンガー城に行く」
「リーナちゃんを迎えに行くの?」
「私の護衛は多い。ミレニアスでも強硬手段を取りにくいだろう」
「お待ちください」
パスカルが発言した。
「今は何よりも王太子殿下の安全を確保する時です。王宮を出ると協力者たちからの援護を受けにくくなります。王太子殿下はこのまま王宮に留まり、伝令で対応すべきです」
「だが、エゼルバードたちが戻る時に問題が起きないか?」
「フレデリック王太子が同行しているので、ミレニアスも軽率なことはしないと思われます。明日の朝、チューリフを出たあとにアンガー城を経由したルートで国境に向かえばいいだけです」
「俺もその方がいいと思う。ミレニアスに詳しいパスカルの判断は信用できる。こっちの人員を分散させるのはよくない」
「交渉は決裂しましたが、エルグラード王太子とミレニアス王の会談においてです。エルグラード国王とミレニアス王の交渉が決裂したわけではありません。まだ、猶予があるとミレニアス側は思っているはずです」
「そうそう。こっちの行動が最悪の事態を呼びこまないように、慎重に行動すべきだよ。国境を無事超えるまでは油断できない」
「明日、チューリフからアンガーに向かう。エゼルバードたちと合流したあとに帰国する。レイフィール、セイフリード、各騎士団長と軍団長を呼べ。私から直接指示をする」
「御意」
ヘンデルとパスカルの声が重なった。





