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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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332 パスカルの対応(一)



「では、早速こちらの書類にある内容についてですが、これがミレニアスの最終提案と受け取ってもいいのでしょうか?」


 パスカルの質問に、宰相が悠然と構えながら頷いた。


「そうだ。これでダメなら、今回の交渉は無駄だったということになる」


 ミレニアス側はキフェラ王女との婚姻により多くの条件を付け加えるという形を変えることはなかった。


 そのことがわかったという意味では収穫があったが、叩きつけられても仕方がない書類だとパスカルは思った。


「そうですか。ところで、ミレニアス国王はリーナ・レーベルオードを捕縛することを口に出しました。王太子殿下が激怒されることは簡単に予想できます。両国の友好を消すつもりなのでしょうか?」


 ミレニアスの宰相はすぐに答えなかった。


 軍務大臣は顔をしかめている。


 二人の反応を見て、パスカルは推測した。


 恐らく、ミレニアス王の発言は宰相や軍務大臣にとって予定外の内容だったのだと。


「正直に言う。知らなかった。だが、これまでの調査と同じ手順を踏むことが王族会議で決まったのかもしれない」


 インヴァネス大公夫妻の娘かどうかが調べられ、本人ではないとなった場合は偽者だということになり、王族の身分や名前を語った罪で騎士団に捕縛される。


 そして、故意の偽証、何らかの益を得るための詐称かどうかが調べられていたことを宰相は説明した。


「故意でなければ無罪だ。形式的に取り調べるつもりだったのかもしれない」

「軍務大臣はご存知だったのでしょうか?」

「知らなかった。騎士団は王の直轄だ。協力要請もなかった。王宮内のことだけに、騎士団で実行するつもりだったのではないかと思われる」

「形式的な取り調べだとしても、捕縛などと……あまりにも軽率では? 現状として、リーナはエルグラード国籍のエルグラード人。養女とはいえ、レーベルオード伯爵家の令嬢。王族付き侍女官。そして、王太子殿下の非公式な恋人です。ご存知ないのですか?」


 宰相と軍務大臣は黙っていた。


「寵愛する女性を捕縛する、つまりは罪人扱いすると言われたのです。王太子殿下が激怒されるのは当然でしょう。私も正直に言いますが、王族付きの者がミレニアス王族の娘かもしれないと思われたことにより、さまざまな影響が出ました。その責任をインヴァネス大公やミレニアスはどう取るつもりなのですか?」

「……クルヴェリオン王太子殿下が退出してしまったため、深く話し合う前に会談が終わってしまった」


 リーナが自らミレニアス王族の娘だと名乗り出たのかどうかについて焦点があてられ、本人の言動に問題がなかったかが精査される。


 本人の言動に問題がなく、勘違いの原因がインヴァネス大公にあるようであれば、そのことについて話し合うことになっただろうと宰相は答えた。


「恐らく、リーナ・レーベルオードは勘違いの原因になるような発言、自分は王族の血を引く娘だと言った。そのせいでインヴァネス大公夫妻が娘だと誤認し、調査することになった」

「違います」


 パスカルははっきりと否定した。


「ご存じないのかもしれないので、私の方から細かく説明しておきます。リーナの両親のどちらかがミレニアス人である可能性を考え、調査すべきだと思ったのは私です」

「レーベルオード子爵が?」

「そうです。元々はエルグラードで素性調査をしていたのですが、子どもの頃に住んでいた場所が重要な手掛かりになると思っていました。ですが、リーナが流暢なミレニアス語を話せることがわかったので、そのことも手掛かりにできないかと考えたのです」


 エルグラード語は国際的な共通語として使用されるせいで外国語を学ぶ者が少ない。


 リーナの両親の片方がミレニアス人だったせいで、ミレニアス語を習わせていたのかもしれない。


 母親であるミレニアス大公妃に手紙を出し、ミレニアス人の行方不明者の中に該当する条件の者がいないかどうかを調べたいと伝えた。


 すると、本人に興味がある、会いたいと言われた。


 エルグラード側は断ったが、インヴァネス大公夫妻からどうしてもという要請があり、情報提供と引き換えに顔合わせをした経緯をパスカルは説明した。


「こちらは行方不明者の中に該当者がいるかどうかを知りたいだけでした。インヴァネス大公夫妻の娘リリーナは私にとって父親違いの妹です。リリーナは八歳の時に死んだと聞いていますし、誘拐されたことも行方不明なことも知りませんでした。ですので、リーナのことをインヴァネス大公夫妻の娘のリリーナだと思う者はエルグラード側にいませんでした。その可能性があると言い出したのはインヴァネス大公夫妻です」


 宰相と軍務大臣は困り切った表情を浮かべた。


「ですので、リーナが自らミレニアスの王族だと名乗り出たというのは完全な間違いです。リーナは自分や両親の身分を全く知りませんでした。もし知っていれば、もっと早く関係者に連絡ができました。何も知らないからこそ孤児になってしまった。孤児として育ったことが証拠なのです。その点をはっきりと申し上げておきます」


 パスカルは冷たく厳しい表情で明言した。


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