328 フレデリックからの届け物
フレデリックはやれやれといった様子でため息をついた。
「バカが来たのは謝罪する。俺の責任ではないが、何か要望はあるか?」
「ああいった者を近寄らせるな! エルグラードとミレニアスの関係がどうなるかが決まる重要な時だ。互いに注意すべきことだろう!」
「俺はわかっている。だが、自覚が足りない子どももいる。あらためて各所に通達しておく」
フレデリックはリーナに視線を向けた。
「リーナも要望を出せ。内容によるが、叶える方向で検討する」
「メルセデスへの同情はするな! 温情処置はエルグラードの威信にかかわる! 許されない!」
自分の考えが見透かされているとリーナは思った。
「でも、未成年です。しかも、髪を切るなんて……高貴な女性にはつらい処分です」
「つらいのがわかっているからこそ提案した。だが、平民であれば処罰でも何でもない。髪を切って売る女性もいるだろう?」
「お金のために髪を売るとしても、喜んでする者とそうでない者がいます」
「職務的に考えると、ある程度は我慢すべきだろう。だが、兄上の恋人であるという話が出たあとでの暴言だった。間接的に兄上を侮辱することになる。絶対に許されない!」
「セイフリード王子の言う通りだ。厳しい方がメルセデスのためにもなる」
フレデリックも厳しい対応をすることに賛成だった。
「ところで、献上品はどうだった? ほしいものや興味を引くようなものがあったか?」
「特には」
「そうか。俺が言うのもなんだが、ミレニアスにあるのはチューリップだけだ。伝統的な品もあるが、ミレニアスならではと言えるような特色がない。そもそも、ミレニアスではエルグラードのものを最高級としている」
ミレニアスでは自国の最高級品よりもエルグラードの最高級品の方が格上という感覚と価値観が定着していた。
「高位者や富裕層はエルグラードで特注した品や流行している品を取り寄せる。ミレニアスの品には見向きもしない」
「献上品の中にエルグラードの品がないだろうな?」
「さあな。商人次第だが、もしかするとあるかもしれないな?」
フレデリックはリーナに視線を変えた。
「それで?」
リーナは困ってしまった。
「わかった。俺に任せろ。良さそうなものを選んでやる。それでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
リーナは満面の笑みを見せた。
「……なぜ、そんなに喜ぶ?」
フレデリックは気になった。
「優しいなと思いまして」
「俺は優しくない。不良だからな」
「私にとっては違います。優しいです」
「勝手に勘違いしていろ」
フレデリックは吐き捨てるようにそう言うと部屋を出て行った。
その夜。
「フレデリック王太子殿下からレーベルオード伯爵令嬢にお届け物です。午後の出来事に対する配慮として贈られるとのことです」
すでに受け取る許可が出ていたため、メイベルが箱を受け取った。
安全を確認するために蓋を開けて中身を確認する。
「天然石? オパールの原石かしら?」
大部分は白いが、大理石他の色が混ざり合っている。
リーナは封筒の中から説明書取り出して読んだ。
「最高級のフレグランス石鹸だそうです。オパールの原石を模したもので、フルーツの香りみたいです」
「確かにフルーツの香りがするわね。見た目も素敵だわ。使うというよりは飾るものなのかもしれないわね? 日持ちもするし、お土産に丁度いい気わ!」
フレデリックは不良王太子として名高い。
どんなものが届くのだろうかとメイベルは心配していたが、予想外に素晴らしいものだった。
「とても綺麗ですし、美味しそうな香りです。お土産として配ると喜ばれそうですね!」
「ちょっと待って。お土産として同じものを配るのはダメよ」
リーナはキョトンとした。
「自分で購入してもダメですか?」
「ダメよ。王族から与えられた品を配ったと勘違いされたら困るでしょう? 土産話として話すのはいいけれど、全く同じ品を購入して配るのはダメよ。自分で使用するためにたくさん買うだけならいいけれど、結構高い品かもしれないわね」
「そうですね」
「届いた品について報告して来るわ。すぐに戻るけれど、念のために鍵をかけておいて」
「わかりました」
メイベルは蓋をすると箱を持って部屋を出ていった。
リボンを綺麗にまとめようとしたリーナは、説明書とその封筒だけが残っているのに気づいた。
「忘れてしまってますね……」
説明書を封筒にしまおうとしたリーナは、一枚のカードが封筒内にあることに気づいた。
カードには流れるような美しい書体の文字があった。
無欲なリリーナへ 虹の輝きを贈る
エゼルバードと買い物した時、オパールの宝飾品が選ばれたことをリーナは思い出した。
「それでオパールみたいな石鹸を?」
そう思ったあと、リーナはハッとした。
贈り物を届けに来た者はレーベルオード伯爵令嬢への届け物だと言ったが、カードの名前はリリーナだった。
リーナの名前はリーナ・レーベルオード。
フレデリックもリーナのことを呼ぶ時はリーナと言い、リリーナとは言わない。
それでもカードの名前はリリーナにした。そして、ミレニアス王家にとって特別な虹に関係するものにした。
「……認めてくれているってこと?」
インヴァネス大公夫妻の娘として。
「だったら嬉しいです。やっぱり優しいです!」
リーナの心に喜びが広がった。
素晴らしい贈り物はカードの言葉によってより特別なものになった。





