324 厳しくて、正しくて(二)
「お前は愚かだ」
リーナが最初に言われそうだと思っていた言葉をセイフリードは放った。
「お前は兄上の恋人になって喜んでいた。だというのに、その喜びを簡単に手放した。不安に負け、大切なものを自らの手で捨てようとした」
リーナは何も言えず、うなだれた。
「兄上の恋人であることを辞退すれば終わりではない。側にいられないのであれば解雇だろう。養女にしたレーベルオード伯爵家にも迷惑をかける。パスカルがお前を庇っても肩身が狭くなる。足を引っ張ることになるだろう。やはり平民に戻るということになれば、お前は全てを失うに等しい。七歳の時につらい経験をしたことが活かされていない」
リーナは目を見開いた。
「何も考えていなかったな?」
「すみません」
そうとしか言えないほど、リーナは大きなショックを受けていた。
「兄上やエゼルバードは純粋だと思うかもしれないが、僕に言わせればただのバカだ。本当にお前は二十歳なのか? 孤児院で育ったくせに世間知らずだ。本当に孤児院育ちなのか?」
「二十歳です! 孤児院育ちです! 間違いありません!」
リーナが元気よく認めたため、セイフリードは余計に呆れた。
「バカにつける薬はない。取りあえずは兄上の指示に従い、恋人のままでいろ。その方が役に立つ」
「本当に役立てるでしょうか?」
「兄上はキフェラ王女と結婚したくない。恋人がいれば、縁談を断って当然だろう?」
「まあ……そうですね」
「元平民の孤児という部分も使える。身分や出自のせいで恋人関係に進展するまで時間がかかったというのはどうだ? おかしいか?」
「おかしくないです」
「つまり、キフェラ王女との縁談を断固拒否するために役立つ」
「セイフリード王子殿下は本当に頭がいいです。私には絶対に思いつきません」
「お前はバカだからな。王太子の恋人でなくなったら身の破滅と考えるのが普通だ。その普通がない。平凡そうで非凡だな?」
「そうかもしれません」
「図々しい。まあいい。いざという時は僕が拾ってやる」
「それって……侍女として雇ってくれるということでしょうか?」
「恋人でもいい。縁談避けとして活用する。どっちがいい?」
「侍女でお願いします!」
即答するリーナをセイフリードはじっと見つめた。
「……侍女が好きなのか?」
「侍女好き?」
「王子の恋人なら働かなくていい。楽に生活できると思わないのか?」
「ああ……でも、王子の恋人でなくなったら身の破滅ですよね? そう考えるのが普通のはずです。ですので、侍女でお願いします!」
セイフリードは深いため息をついた。
「しっかりと働いて僕に尽くせ。わかったな?」
「はい!」
まったくもってリーナらしい……。
だが、それでいいことをセイフリードはわかっていた。





