318 インヴァネス大公の過去(二)
フェイリアルとリリアーナは幸せだった。
そのことを示すかのように、娘が生まれた。
名前はリリーナ。
エルグラードにある婚姻の女神ユーノを祀る神殿が毎年発表する加護の名前から選んだものだった。
リリアーナは前夫パトリック・レーベルオードとの間に息子を産んでいる。
その名前パスカルも、ユーノ神殿が発表した加護の名前からレーベルオードの先祖名に連なるものを選んだ。
父親が違うとはいえ、パスカルとリリーナは兄と妹。
エルグラードとミレニアスで離れて暮らしているが、母親は同じ。
ユーノ神殿の加護の名前という共通点を付け加えることによって、兄と妹の良き縁がつながるようにという想いが込められていた。
フェイリアルは愛する妻と娘との幸せな日々を過ごした。
しかし、幸せだということが、かえってフェイリアルの不満を大きくしていった。
リリアーナとの正式な婚姻の許可が出ない。側妃にできないと内縁の妻という立場。リリーナは大公女になれるはずだったというのに、婚外子にされてしまった。
ミレニアスは身分や階級を極めて重視している。
フェイリアルはリリアーナを側妃、リリーナを大公女にして王族の身分を与えたかった。
そのことを二人の兄たちに打ち明け、そのための機会が来るのを待っていた。





