315 それが本心
「クオンの表情が凶悪になっているよ。相当苛ついているよね?」
「当然だ」
「つまり、それがクオンの本心だ。リーナちゃんを誰かに渡したくないってこと。どんなことをしてでも側におけばいい。なぜなら、エルグラードの王太子の想い人を悪用されたら困る。ミレニアスには絶対に渡せない。命令してでも阻止すべきだ。それが正しい判断。わかった?」
「ヘンデルは友人だ。そう言ってくれるのは嬉しい。だが、間違ったことに力を使うわけには行かない。熟考すべきことだ」
「側近としての意見でもある。クオンがリーナちゃんに好意を感じている時点で、リーナちゃんが弱点になるのはわかっていた。だから、余計なものを近づけないようにと通達してあったのに、鉄壁じゃなかった」
調査役だったせいでキフェラ王女を拒否できなかった。
メイベルやパスカル、その場でうまく対応できそうな者が同席できなかった。
防御を突破されたということになる。
もし、キフェラ王女が暗殺者などであれば、リーナの命はない。
それほどの大失態だと思っていることをヘンデルは打ち明けた。
「ごめん。友人としても側近としても心から謝る。より厳重にするから」
「私も甘かった。リーナ一人で調査を受けるような状況は許さないと伝えておくべきだった」
「関係者を集めてしっかりと対策する。だから、リーナちゃんのことは任せて。クオンはミレニアスのことを考えて。判断しないといけないからさ」
「リーナに花でも贈った方がいいだろうか?」
「いらない。リーナちゃんに何かあったと思われるだけだから」
「そうか……そうだな」
「取りあえず、リーナちゃんの件は終わり。片付いた!」
「片付いていない。ミレニアスの王族会議はこれからだ」
「午後にインヴァネス大公が到着するらしいから、今日中に話し合うはずだよ。最終的な判断とその通達がこっちに来るのが明日かな」
「アルヴァレスト大公の意見を聞くと、リーナを認めることはなさそうだ」
「妥当だね。俺がミレニアス王だったらリーナちゃんを認めない。クオンだったらどうする?」
クオンは黙り込んだ。
それが答え。
王家の血筋に不確定な要素を入れないように認めない判断をするということだった。
「大丈夫。それならそれで俺としては嬉しい。リーナちゃんはエルグラード国籍のエルグラード人だ!」
「私もそう思っている。政略に巻き込まれにくくなる。守りやすくなる」
「絶対に守れると言いたいところだけど、クオンの努力次第だよ」
「わかっている」
「じゃあ、午後の会議に備えて打ち合わせをしよう」
クオンとヘンデルはミレニアスへの対応について話し始めた。





