314 どうしたいのか
「クオンの気持ちの確認。リーナちゃんを妻にしたい? どうしても結婚したい?」
「迷っている」
クオンは正直に答えた。
「リーナは私の妻になるのを諦めた。キフェラ王女に惑わされたせいだというのはわかる。だが、今回は乗り越えてもまた同じようなことがあるはずだ。その度にくじけるような女性に、私の妻が務まるのだろうかと思った」
「笑えるなあ!」
ヘンデルは大声で叫んだ。
「クオンは王太子ではなく、本当の自分を見てくれる女性を妻にしたいと思っているはずだ。なのに、相手の女性が自分の妻としてふさわしく務めることができるかどうかで判断しようとしている」
「何がいけない? 私の妻には多くの困難がつきまとう。くじけない女性がいいに決まっている!」
「別にいけなくはないよ。クオンは妻に我慢させてしまうことがわかっている。だから、我慢強くてくじけない女性がいいのもわかる。でも、本当の自分自身を見てくれる女性という条件とは違うよね?」
クオンは否定できなかった。
「クオンは忙しい。時間はとても貴重だ。すぐに弱音を吐いてしまうような女性じゃ手間がかかる。面倒だよね。足を引っ張る。そうじゃない女性がいい。だから、リーナちゃんは正しい。役に立たないどころか、足を引っ張るだけの可能性も高い。だから、妻にふさわしくない。リーナちゃんはそのことに気づいたから身を引いた。クオンもリーナちゃんでは務められないと思っている。仕方がないよね。諦めるべきだよ。でも、諦めにくい。初めて好きになった女性だからだ。妻にしたいと思ったからでもある。もう二度と、そう思える女性と出会えないかもしれない。リーナちゃんがダメだとなると、結婚相手は期限切れでキフェラ王女になるかもね?」
「やめろ!」
クオンは怒りを爆発させた。
「絶対にキフェラ王女とは結婚しない!」
「でも、王太子妃の務めはこなせそうだよ。何年も後宮でずっと耐えて生活していた。自分を拒絶する王太子、意地悪をする候補たちがいてもわがままを貫いた。そうなると、クオンが望む条件の一つは満たしていることになる。我慢強い女性って部分」
「我慢強くはない。わがままを我慢できていない」
「他の候補は酷いわがままを言っていないよ」
ヘンデルは後宮を担当する側近としても、学友としても、側妃候補たちのことを知っていた。
「相当我慢している。俺も王太子妃には我慢強い女性がいいと思うから、この試練を乗り越えられる側妃候補でないとダメかなあと思っていたよ」
「他の候補者の話はやめろ。全員ダメだ。私が直々に話したというのに助言も警告も無視した。従わない者を妻にしたくはない」
「じゃあ、それも条件だね。助言も警告も無視した者や従わない者もダメ。どんどん増えていくなあ。話せば話すほど、クオンの条件は増えそうだね?」
クオンは表情を歪ませた。
「何が言いたい? はっきりと言え」
「理想の女性を求めるのはいい。でも、完璧なまでに理想通りって女性はいないと思うよ?」
「それはわかっている」
「だったら、リーナちゃんが諦めるって言っても許してあげなよ」
「それは……わかっている。リーナの気持ちを大事にしたい」
「いやいやいや、わかっていない。本当に諦めていいってことじゃない。弱音を吐くことを許してあげるってことだよ」
心が弱っている時だからこその考え方や言葉がある。
それは仕方がない。誰にでもあること。
すぐにダメだと思うようでは、寛容さが足りないとヘンデルは伝えた。
「クオンはリーナちゃんの幸せのためにって言うけれど、本当にできる?」
「何がだ?」
「手放すってことだよ。リーナちゃんのためなら、恋人関係を解消して、他の男性と結婚させるかってこと」
「リーナが望むのであれば仕方がない」
「じゃあ、結婚相手は俺でもいい?」
クオンは驚愕した。
「だって、クオンの目に留まるだけあっていいところがいっぱいあるじゃん? 絶対に幸せにするって約束するから譲ってよ?」
「ダメだ!」
クオンは全力で拒否した。
「絶対に渡さない!」
「なんで?」
「お前では幸せにできない!」
「できるよ。立派な屋敷の綺麗な部屋で美味しいものをたくさん食べさせてあげればいい。絶対に喜ぶ。仕事で忙しくても理解してくれるから大丈夫。社交は最低限の方がいい。俺がいない時はどこにも行かなくていいしね」
「屋敷に軟禁する気か?」
「安全安心な屋敷にいればいいってだけ。必要な物も人も取り寄せる。それが高位者の普通じゃないか。子どもの世話は得意そうだし、育児は任せようかなあ。邪魔な相手は容赦なく排除する。クオンよりも女性に詳しいし、幸せにできる自信があるよ」
クオンは大否定したかった。
だが、それは感情による判断だとわかっていた。





