3 面接結果
リーナは先ほど受け取った書類を部屋の女性に渡した。
「三十点ですか。低いですね」
やはり低い点数なのだと思ったリーナはがっかりした。
「では、案内します」
部屋の女性はドアを開けた。廊下につながっている。
不採用と言われて帰ることになるのだろうかとリーナは思ったが、女性はすぐ近くの部屋にリーナを案内した。
その部屋には数人の女性がいた。面接者が座るための椅子もある。
「おかけになって」
「はい」
リーナは空いている席に座った。
「これから後宮や仕事について説明をします。よく聞いて下さい」
内容を確認し、自分には無理だ、合わないと思えば説明途中でもすぐに伝える。
その場合は応募を辞退したことになる。
単に質問をしたいという場合は、話を全て聞き終えてから最後にまとめてする。
女性の説明にリーナは何度も頷いた。
「いいですね?」
「はい」
「まずはとても基本的なことですが、後宮がどんなところかわかりますか?」
「王族の側妃や寵姫が住む所です。職業斡旋所でそう説明されました」
「では、側妃や寵姫というのはどういうものかわかりますか?」
「王族の寵愛を得る女性のことです」
「不十分です」
リーナは孤児院育ち。
側妃や寵姫について詳しく知るわけもない。
「側妃は妻の一人です。寵姫は非公式な立場ですが、王族を陰ながら支える女性です」
後宮は王族の寵愛を得る女性が住む場所ではあるが、後宮に住む女性全員が寵愛されているわけではない。
寵愛されていない女性も住んでいる。
寵愛されている女性に仕える者もいれば、寵愛されていない女性に仕える者、それ以外の者も住んでいる。
今回募集されるのは、後宮の下働き。
応募者は後宮で王族や高貴な身分の者に見染められる機会があるのではないかと考える。
だが、下働きには絶対にそういった機会はない。
下働きは王族や高貴な身分の者に出会わないように気をつけながら生活したり仕事をしたりしなければならない。
万が一王族の前に姿を出してしまうと、それだけで不敬になる恐れがある。
処罰されてしまうだけでなく、投獄されてしまう可能性もゼロではない。
そうならないようにしっかりと自分の立場をわきまえて行動し、後宮の規則を守らなければならない。
姿を見られただけで処罰や投獄なんて……。
リーナは後宮をとても怖い場所だと感じた。
しかし、年齢的に孤児院を出て行くしかない状況だ。
衣食住が保証される仕事につけるかわからない。
しっかりと立場をわきまえて行動し、規則を守ればいい。
そうすれば後宮でも働ける。
大丈夫……きっと!
リーナは心の中で一生懸命自分を励ました。
その後も細かい説明が長々と続く。
「ということで、後宮のお仕事は貴族や裕福な者の屋敷で働く下働きと同じような仕事もありつつも、それとは比べ物にならない厳しい規則があります」
王族が出入りする後宮で働く責任は重い。
しかし、名誉でもある。
後宮にいる全員が王族のため、国のために尽くしていることも教えられた。
ひたすら長い説明をリーナはしっかりと聞いた。
とても大事な話だと思いながら。
「説明は以上です。今の説明を聞いても尚、後宮で働きたいと思いますか?」
「はい! 働きたいです!」
リーナは即答した。
とにかく仕事が欲しかった。
その様子は非常に働く意欲があるように見えた。
「わかりました。では、採用です」
「えっ!」
突然の採用通達にリーナは驚いた。
「採用ですか? 本当に?」
「長い説明をずっと真剣に聞いていました」
大抵の者は説明が長すぎると感じ、表情や態度に出る。
だが、リーナはずっと真剣な表情で話を聞き続けた。
「真面目な証拠です。よって、採用します」
「ありがとうございます! 一生懸命頑張ります!」
リーナは一生懸命説明に耳を傾けて良かったと喜んだ。
「これが採用通知です。なくさないように。これを職業斡旋所に見せて、採用されたことを報告して下さい。そして、家族や親しい者などに別れの挨拶を告げ、身の回りの物を手荷物にまとめて後宮に来て下さい」
大きな荷物や家具は持ち込めない。
自分の手で持つことができる鞄で二つ程度が目安になる。
肩にかけたり背中に背負ったりするような鞄を利用すればもう少しは持ち込めると説明された。
「この採用通知が通行許可証にもなります。検問所も通れるでしょう。準備ができたら、三日以内に後宮に来て下さい。わかりましたね?」
「わかりました!」
リーナは嬉しさでいっぱいになった。
リーナは職業斡旋所に採用の報告をし、孤児院に戻った。
住み込みで働く場所が見つかったとわかり、院長は喜んだ。
「できるだけ早く荷物をまとめて出て行きなさい」
「はい」
部屋に戻るとリーナは自分の持ち物を確認した。
それらはリーナのものになっているが、本当は孤児院のものだった。
孤児院にいる間だけ、リーナが使用できる。
服一枚であってもリーナのものとして勝手に持っていくことはできない。
とはいえ、何もないのは困る。裸で外を出歩くわけにはいかない。
リーナは持ち物を整理すると、持ち物について院長に相談した。
院長は最低限の衣服や小物などを持って出ていくことを許可し、布製の手提げ鞄を餞別としてリーナにくれた。
翌日、リーナは荷物の入った布製の手提げ鞄を一つだけ持ち、後宮に向かった。





