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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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299 二人だけで



 部屋に戻ったリーナは大きな息をついた。


「疲れたでしょう?」

「はい」

「さっさと着替えるわよ。まずは入浴。食事は遅めでもいいわね?」

「はい。お茶会で色々いただきましたので、お腹は空いていません」

「私は逆よ。何も出なかったからお腹が空いたわ」


 リーナは申し訳ない気持ちになった。


「すみません。メイベルさんはずっと他の部屋で待機されていたのに、私だけお食事をいただいてしまいました」

「リーナはお茶会に招待されたのだからそれでいいのよ。私はただの付き添いなんだから気にしなくていいのよ。でも、夕食があまり入らないということであれば遠慮なく残してね。私が食べるから!」

「お肉の料理はメイベルさんが食べてください」

「リーナは本当に優しいわね」


 リーナとメイベルは一旦入浴して身支度を整え直した。


 部屋で待機しながら遅めの夕食を取り、そのあとは荷物を整理しながら他愛もない会話を続けていた。


 そろそろ就寝の支度をしようという頃、部屋のドアがノックされた。


「何か?」


 メイベルが尋ねると、ドアの前で警備をしている護衛騎士が応えた。


「伝令です。後ほど、王太子殿下がこちらに来られるとのことです」

「わかりました」


 メイベルは返事をすると、すぐにリーナに視線を変えた。


「リーナ、お化粧を直して。口紅だけでもいいわ」

「衣装はこのままでも大丈夫でしょうか?」

「時間的に長居しないでしょうし、大丈夫だと思うわ」


 二人は王太子の来訪に備え、素早く行動をすることにした。


 さほど時間が経たないうちに、リーナの部屋にクオンが来た。


「メイベルは下がれ」

「はい」


 部屋にはリーナとクオンだけになった。


 クオンは黙ったままリーナの手を取り、ソファの側に連れて行くと座らせ、自らもその隣に座った。


「今日は外出していたそうだな?」


 クオンはリーナを護衛騎士に守らせているが、同時にその行動を監視させてもいる。


 リーナがエゼルバードと共に外出したことは、すでに報告されていた。


「エゼルバード様とお土産を見に行くことになりました。その後はエゼルバード様が招待されている茶会に同行しました」

「エゼルバードは友人が多い。中には変った者もいる。配慮されたとは思うが、嫌な思いはしなかったか?」

「大丈夫でした」


 気を遣うことはあったものの、特に問題はなかったとリーナは思った。


「楽しめたか?」

「緊張しました。でも、お茶会について勉強できたと思います」

「それは良かった」


 クオンは笑みを浮かべた。


「私はずっと会議だった。午前中はミレニアス王、午後はミレニアスの有力貴族や重職者と会った。ミレニアスに来た目的を果たすためには、多くの者の声に耳を傾けなければならない。中には腹立たしい意見もあるが、相手の言い分を聞いた上で深く検討しなければならない」


 クオンは自分がどのように過ごしたか、どう思ったかをリーナに話した。


「女性は政治に関われない。だが、私が懸命に努力し、王太子として務めていることを理解してほしいとは思っている」

「もちろんです! エルグラード国民として、クオン様のような優秀で素晴らしい方が王太子であることを誇りに思っていますから!」

「そう言われると嬉しい。王太子として一層励もうと思う」

「私だけでなく多くの人々が同じように思っています。クオン様を応援しています」

「わかってはいる。だが、なかなか期待には応えられない」


 クオンはため息をついた。


「私はずっと国境付近の治安が悪化していることを懸念していた。住民の生活を脅かすだけではない。経済活動にも悪影響を与えている」


 近年は主要街道における大事件は起きていないが、それは街道警備を厳重にしているからでもある。


 街道警備の負担は年々増すばかり。


 エルグラード国内の問題だとミレニアスは言うが、犯罪者はミレニアスから密入国して来る。


 犯罪行為をしたあとに国境を越えてミレニアスに戻ってしまうと、エルグラード側の警備隊は追跡も捜査もできない。


 効果的な対策ができないまま年月が経ってしまっていることをクオンは説明した。


「ミレニアスの提案は受け入れられない。交渉はまとまらなさそうだ。このままでは強硬対策を取ることになるだろう」


 クオンはリーナを抱きしめた。


「私はエルグラードの王太子として強い力を持っているが、一人の人間でもある。神のように全てを解決できるわけではない。欠点も短所もある。リーナから見てよくないと思う部分があるなら教えてほしい。国民が誇れる立派な王太子になりたい」

「わかりました!」


 リーナは元気よく返事をした。


「では、早速いいでしょうか?」

「何だ」

「難しいお仕事ばかりで大変なクオン様を励したいです。どうすればクオン様は励まされたと感じますか?」


 非常に正直な質問だとクオンは思った。


「リーナと一緒にいると心が安らぐ。特別なことをする必要はない。ただ、王太子としてではなくクルヴェリオンという一人の男性として過ごしたい。それでもいいだろうか?」

「クオン様がそうしたいのであれば。でも、どんなクオン様であってもクオン様です。同じ人物ですよ?」

「そうだな」

「どんなクオン様でも好きですから」


 クオンはリーナをじっと見つめた。


「本当にどんな私でも好きか? 怒っている時でもか?」

「人間には喜怒哀楽があるのが当然です。クオン様がしたいようにすればいいと思います」

「私のしたいようにすると、リーナが困るかもしれないが?」

「えっ、そうなのですか?」


 クオンはリーナに口づけた。


「どうだ? 困ったのではないか?」

「……恥ずかしくなりました。でも、嬉しいです。口づけは愛情表現ですよね?」

「そうだ。リーナが好きだと伝えたい」


 再び唇が合わさった。


 無言で抱きしめ合ったまま、時間が流れていく。


「明日も会談があるが、時間が作れそうなら会いに来る。リーナは今の内にミレニアスでの滞在を楽しんでおけ。ミレニアスに残ることはできない。私と共にエルグラードに帰ることになる。それでいいな?」

「もちろんです。私はエルグラード人としてエルグラードに住みます!」

「クルヴェリオンとしてもエルグラード王太子としても、リーナの決断を支持する」


 クオンはリーナにもう一度口づけた。


「ゆっくり休め」

「はい。おやすみなさいませ」

「おやすみ」


 クオンが部屋を出ていくと、リーナは急激に寂しくなった。


「ずっとクオン様の側にいたい……」


 リーナは自らの想いをつぶやいた。


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