296 ヘンデルの会談(一)
ヘンデルはミレニアス宰相との会談に臨んだが、予想通りミレニアスの宰相は強気な態度だった。
まあ、ミレニアスのお国芸は威張ることだしなあ……。
ヘンデルは愛想笑いをしながら様子を見ることにした。
「これでは話し合いにならない。エルグラードの国王と宰相がいれば違っていただろう。やはり実権を持つ者同士で話さなければ難しい」
国力差があるのに、全く関係ないって感じか……。
ミレニアス側の対応については、ヘンデルも頭で理解できる。
国力で考えるとミレニアスは圧倒的に不利で、対等な交渉ができない。
対等な交渉をするには国対国、王対王、宰相対宰相などとした方がいい。
しかし、それはあくまでもミレニアス側にとって都合がいい考え方で、エルグラードがそれに合わせる必要はなかった。
「ミレニアス宰相、私はエルグラード王太子の側近です。王太子殿下を支えることが役目ですので、外交的な交渉を直接担当することはありません。交渉は私よりも下の者が担当します」
ヘンデルが取り組んだのは、ミレニアス側が思っているよりも自分の立場が上だと示すことだった。
「エルグラードとミレニアスでは統治体制に違いがあります。エルグラードの王太子には常時国王代理の権限があります。ですので、王太子はいつでも国王代理としての判断ができます。政治的権限がないミレニアスの王太子とは全く違います」
ミレニアス宰相は黙っていた。
「エルグラード王太子の側近の立場も、ミレニアスとは違います。首席補佐官の私は王族や重臣間の調整役を務めています。つまり、私がどのように調整するかで状況が変わります。その影響力はかなりのものだと自負しております」
ヘンデルは単に王太子の執務を補佐するだけではないこと、王族や重職者たちに対する影響力が強いことを暗示した。
「帰国後、王太子殿下はミレニアス王とどのような話をしたか、エルグラード国王陛下に話します。細かい説明も最終報告書をまとめあげるのも私です。ですので、私が受けた印象や知った内容がエルグラード国王陛下に伝わるのです。私が悪い印象を持てば、そういった説明や報告書になるというわけです。その逆もありえます」
ヘンデルはミレニアス宰相の様子を見た。
黙ったまま表情を変えないようにしているのが明らか。
揺さぶりが効いていた。
「午前中の会談、そして先ほどの話をそのまま報告書にするのはとても難しく感じました。なぜなら、両国間の友好を深め、共に問題を解決するような印象ではないからです。王族の婚姻が整えば問題も解決すると勘違いされているのでは?」
「エルグラード国王はクルヴェリオン王太子とキフェラ王女の婚姻を非公式に約束している。だというのに、クルヴェリオン王太子はそれを違えようとしている。それこそ両国の友好を深めようとしているとは思えないが?」
ヘンデルは笑みを深くした。
「エルグラード国王はキフェラ王女がどのような女性かを知りませんでした。だからこそ、留学を受け入れたのです。その結果、キフェラ王女にはかなりの問題があるとわかりました。だからこそ、インヴァネス大公女リリーナ様とのお話が出たのでは?」
「その件は未確定だ。インヴァネス大公が王都に戻らなければ話し合えない」
「なるほど。ミレニアスでは王が一人で全てを決めることはできないというわけですね?」
わざとらしいヘンデルの言葉に、ミレニアス宰相は怒りの形相に変わった。





