291 ミレニアスらしいやり方
「これだけあると精査するのに時間がかかりそうだ」
ミレニアスが得意とする時間稼ぎだとクオンは思った。
「その間にエルグラードにも精査してほしいことがある。キフェラとの縁談の件だ」
「拒否する」
クオンは即答したが、ミレニアス王は気にしなかった。
「クルヴェリオン王太子が反対していることは知っている。だが、これは両国の友好に関わることだ。エルグラード国王や王妃はキフェラとの婚姻を歓迎している」
「単に身分だけは釣り合うと思っているだけの話だ」
「そんなことはない。この縁談を提案したのはエルグラード王妃だ」
クオンは表情を動かさなかったが、内心では驚愕していた。
「エルグラードの王太子妃や王妃の座に興味があるのであれば、娘をふさわしく養育するようにと言われた。だからこそ、一番賢いキフェラがいいだろうと判断した。だが、賢過ぎるからこそ嫌なのだろう?」
ミレニアス王は再びため息をついた。
「その気持ちはわからないでもない。女性が政治に口を出すべきではないと教えたというのに、キフェラは何でも知りたがった。政治についてもだ。クルヴェリオン王太子がそのような女性を望まないことはわかっている。だからこそ、こちらも相応に考えた。宰相」
「こちらを」
ミレニアスの宰相が差し出した資料をヘンデルが受け取った。
「キフェラの持参金をローズワース領にするという提案だ。検討してほしい」
「ローズワースをエルグラードの領土にできるということか?」
「そうではない。キフェラにローズワース公爵位と領地も与える。領主であるキフェラは婚姻後もその資格を失うことなく、エルグラードから統治できるようにする。クルヴェリオン王太子は妻を通してローズワースを好きにできる。密入国者に対処しやすくなるだろう」
……ミレニアスらしいやり方だ。
国境問題への対処をしたければ、キフェラ王女と婚姻すればいい。婚約の段階で益があると説明し、エルグラードに受け入れさせようとする方法だった。
「この条件でいいということであれば、正式な婚約発表をする。キフェラにはすぐにローズワース公爵位と領地を与えるため、クルヴェリオン王太子は婚約者の内からローズワース領に口出しできる。どうだ?」
キフェラ王女との婚姻を活用した交渉はエルグラード側にとって想定内だった。
だが、キフェラ王女の持参金としてユクロウの森を多く含むローズワース領を絡めてくることまでは考えられていなかった。
「送別会までに返事がほしい。クルヴェリオン王太子がエルグラード国王の代わりに受け入れることを了承するのであれば、送別会の時に婚約発表をしたい。もちろん、キフェラをローズワース公爵にもする。素晴らしい手土産になるだろう」
「別の提案はないのか?」
「ない。国境問題はこれで解決する。別の提案を考える意味はない」
「次の議題に移りたい。輸出入における品目の見直しについてはどうだ?」
クオンは縁談とは違う話題を提案した。
「それでいい」
ミレニアス王は余裕の笑みを見せながら答えた。
クオンは淡々とした態度でミレニアス王との話し合いを続けた。





