29 掃除業務の改善
リーナは掃除業務を改善してみることにした。
掃除は汚れている部分をする。汚れていない場所は掃除する必要がない。
それが新しいルールだ。
これに従うと、リーナが昔から担当している三か所は掃除をしなくていい。
タオルの補充と備品数のチェックだけ。せいぜい手洗い場を軽く拭く程度。
床を隅々まで乾拭きする必要がなくなったため、非常に早く終わった。
リーナは備品数のチェックについても工夫することにした。
適当に積み重ねられていたトイレットペーパーを綺麗に揃えて並べた。
倍数を使った計算により、早く数えることができる。
タオルも十枚ずつ、手前になる部分を折り目と端部分で交互になるようにした。
十枚単位で数えやすくなる。
最初は並べ替える作業があって大変だが、次からは楽になるのではないかとリーナは期待した。
十五時になると、リーナは侍女見習いの休憩室に行った。
ポーラに臨時の掃除が必要な場所について報告する。
「ポーラ様のおかげで改善すべき点に気づくことができました。心から感謝申し上げます。ポーラ様のご負担を減らすべく頑張って掃除時間を短縮します!」
深々と頭を下げるリーナを見て、ポーラはその通りだと言わんばかりに頷いた。
「召使いだしろくな教育を受けてないからよ。もっと頭を使いなさい!」
「はい。本当に申し訳ありません。もっとよく考えます」
「今日はどこまで終わったの?」
リーナは言葉に詰まった。
「全然駄目そうね。掃除の仕方を変えてないの?」
「変えました。掃除は早めに終わったのですが、備品数の確認に時間がかかってしまったのです」
「どうせ真面目に一個ずつ数えているからじゃないの?」
リーナは首を傾げた。
「それ以外に何か方法が?」
「時間が足りない時は大体でいいのよ」
一個と十個では違い過ぎるが、十個と十二個では大差がない。
しっかりと数えたところで、誰かが来て一つ持ち出せば合わなくなる。
「貴方は馬鹿過ぎるの。真面目にやるだけ損なのよ。多少はそうやってうまく手を抜くの。賢くサボるのよ!」
リーナは思い出した。
ポーラには少し問題があるとセーラが言っていたことを。
恐らくは、このような部分ではないかと感じた。
真面目に勤務しないというか、問題にならない程度に手を抜く。
まさに賢くサボるのだ。
ポーラが二カ所を残して休憩していたことをリーナは思い出した。
本当はすぐに終わる。だが、わざと少しだけ残して休憩した。
十六時までの時間調整。サボっていた。
それをわかっているからこそ、セーラは報告について変更した。
休憩室で時間調整しているポーラを逆に活用し、報告と通達業務でしっかり働かせることにしたのだ。
「さっさと巡回に行きなさい」
「はい。失礼します」
リーナは巡回に戻った。
急いだものの、備品を並べ直すのに時間がかかってしまった。
そこで一度部屋に戻り、書類を木箱に入れて鍵をかけた。
本来は勤務が終わらないと食事に行けないのだが、あえて先に行くことにした。
夕食に行くとスープを一気に流し込み、パンは部屋に持ち帰ることにして入浴に向かう。
ゆっくりする時間はない。急いで体を洗ってお湯を被るだけだ。
私服がないため、湯上り後も制服だ。
入浴後はまた巡回に戻る。
終わったのは二十四時過ぎだった。
三時からはまた勤務になる。二時間程度しか眠れない。
リーナは業務ポストに書類を入れると部屋に戻り、倒れるように眠りについた。





