288 退場処分
「やめなさい」
エゼルバードが厳しい口調で言った。
「私のリーナにそのようなものを触れさせるわけにはいきません。下がりなさい」
「その女性は妹役というだけ? それとも恋人なのかしら?」
「どちらでもありません。ですが、大切にしています」
「大切にしているということは、特別な女性だということでしょう? どういう関係か教えてくれないの? 皆も知りたいと思っているはずだわ」
マグーラの言葉は決して間違いではない。
エゼルバードが友人で共に留学した側近たちを連れてくるのはわかるが、初めて見る女性であるリーナを連れて来たことに興味を持つ者は多かった。
「お前は宝飾品を取りはずしたが、捨てていない。下がれと言われただろう? 一旦外に行って捨てて来い」
フレデリックはマグーラを退出させようとした。
「簡単に言わないで。宝飾品をホテルのごみ箱に捨てろというの?」
「俺は捨てろと言った。捨てることができなければ、茶会への出席は認めない。帰れ」
「白鳩会においてフレディに逆らうことは許されない。退会処分になりたくなければ早く捨てて来い」
ハルヴァーが諦めろと促すような表情でそう言った。
「サルヴァータ公爵令嬢、エゼルバード様がご不快になられるようなことをしてはいけません。芸術を盾にすれば処罰されないと過信するのは禁物です」
アベルは静かに手を動かし、護身用に持つ細い短剣を取り出した。
「エゼルバード様は下がるようにと言いました。それができないということであれば、私が手を下します。他国の王族だけに死罪は免れるので安心して実行できます。どうしますか?」
アベルの様子は淡々としていたが、リーナは脅しではなく本気だと感じた。
「待て、アベル。茶会を血で穢すな」
さすがに不味いと思ったフレデリックが口を挟んだ。
「さっさと部屋を出ろ。それだけで済む話だ。せっかくエゼルバードを招待したのに問題を起こすな!」
「フレディがいけないのよ。チューリップの葉の宝飾品の話をしたのでしょう?」
「俺ではない。宝飾品店の店員が話した」
「だったら、その店員を処罰しなさいよ。私は自分の作品をエーゼルに見て貰いたくて身に着けてきただけだし、エーゼルに説明もしたわ」
「私がそのような品を評価するわけがありません」
エゼルバードはより強く不快さをあらわにした。
「出て行きなさい。でなければ、アベルが処分します」
「エルグラードの者の手を汚させないあたりが、エーゼルらしいわね」
マグーラは長いドレスの裾をひるがえして立ち去った。
「このようなことになるとは思わなかった。すまない」
フレデリックが謝罪した。
「何か飲み物を。席もほしいですね。立ったままではリーナが疲れてしまいます」
「隣の広間に席を用意してある。移動しよう」
「リーナ、行きますよ」
「はい」
エゼルバードはリーナの手を引くと移動し始めた。
……相当怒っていそう。
エゼルバードのエスコートには女性への配慮が感じられる丁寧さがあった。
今はそれがない。
リーナはお茶会が無事終わるよう祈るしかないと思った。





