285 出迎え
白鳩会の特別な茶会は最高級ホテルで開かれることになっていた。
ホテルの周囲は高貴な者が来ることから厳重な警備体制になっており、一目だけでも高貴な者の姿を見ようとする人々で溢れかえっていた。
茶会の時間が迫るにつれ、続々と馬車が到着する。
ミレニアスでも有名な高位者が姿をあわわしたことで、人々の興奮はかなりの熱を帯びていた。
やがて、ミレニアス王太子であるフレデリックが馬車から降りて来る姿を見た人々は大歓声を上げた。
そのあとで降りたリーナは多くの人々が集まっている状況に驚き、思わず足を止めてしまった。
人々の注目がリーナに集まるが、すぐあとに姿をあらわした美貌の持ち主に人々の視線はすぐに移った。
「プラチナブロンドと空色の瞳だ!」
「エルグラードの第二王子だ!」
「エゼルバード王子殿下だ!」
人々の中からそのような声が上がると、人々の興奮は最高潮に達した。
エゼルバードの名前はミレニアスに短期留学していたことやミレニアス王太子フレデリックの友人ということもあり、かなりの知名度を誇っている。
プラチナブロンドの髪に空色の瞳、美の化身のような人物であることも知られており、その色から推測する者もいた。
「前を向いて歩きなさい」
立ちすくんでいるかのようなリーナにエゼルバードは声をかけた。
「申し訳ありません!」
リーナはすぐに歩き出したが、ぎこちないことこの上ない。
フレデリックと同じ馬車に乗っていた人物が誰なのかが調べられ、素性が判明するのは明らか。
エゼルバードはリーナの様子が問題にならないかが気になった。
「これだけ多くの人々がいるのです。笑顔を見せなさい。それだけで喜ばれます」
エゼルバードは手本を見せるために人々を魅了する笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと周囲を見渡すように首を動かし、歓声と拍手に応えるように手を上げた。
その行動に集まった人々は驚愕した。
高位者にとって集まった人々ははるか下の存在であり、無視するかのようにすぐホテルへと移動していった。
だが、美の化身であるかのような人物は違った。
天上人のような笑みを浮かべながら、歓声と拍手に応えた。
ミレニアスは厳格な身分社会。
だからこそ、エゼルバードの行動は比類なき寛大さと慈悲深さのあらわれだと人々は思った。
「微笑んでくれた!」
「手を上げてくれた!」
「応えてくれた!」
感動に包まれた人々が泣き叫ぶ。
その熱量は圧倒的で、移動路を確保するために壁を作っている警備員を今にも押し倒しそうなほどだった。
「エゼルバード、早く中へ移動しろ。危険だ」
先を行くフレデリックが声をかけた。
「わかっています。行きましょう、リーナ」
「はい」
リーナはそう答えたあと、エゼルバードを見習った。
笑顔を浮かべながら人々に小さく手を振った。
「まただ!」
「あの女性も応えてくれた!」
「こっちを見てくれた!」
またしても大きな歓声が上がり、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「エゼルバード様、ミレニアスの方々に感謝の気持ちが伝わりました。皆、笑顔です」
リーナの言葉を聞いた瞬間、エゼルバードの時間が止まった。
エゼルバードが民衆に笑顔を向けるのは王子としての存在をアピールするため、いわゆる人気取りのためだった。
だが、リーナは違う理由で民衆に応えた。
感謝。
エゼルバードがすることもなければ、考えもつかないことでもあった。
民衆に感謝する必要はありません。有名人を見たくて勝手に集まっているだけですからね。
エゼルバードはそう思ったが、言葉にはしなかった。
歓迎のために集まってくれたのだと思っているリーナの純粋さを壊したくなかった。
「……良かったですね」
「エゼルバード様のおかげです」
「私の?」
「笑顔を見せるように助言してくださいました」
間違いではない。
笑顔を浮かべる理由が違ったとしても。
「行きましょう」
「はい」
エゼルバードはリーナの手を取ると歩き出した。
なぜ、わざわざ手を取ったのか。
エゼルバードを知る者たちは、その行動を深く考える必要があると感じた。





