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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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284 物語の馬車



「何ですか?」


 エゼルバードが苛立ちを見せながら尋ねた。


「先ほどから外装の話ばかりだったが、内装が白い馬車はどうだろうか? 装飾に白鳥用いるか、連想させるようなものということであれば取り入れやすい」

「なるほど」


 フレデリックは良さそうだと感じたが、エゼルバードは不機嫌な表情のままだった。


「それだけでは普通の馬車になってしまいそうです。リーナはどう思いますか?」

「内装に白鳥を取り入れるということですか?」

「そうです」

「とても素敵だと思います! 白鳥は愛の鳥ですし、ハートにもなりますから!」

「ハート?」

「ハートになる?」


 エゼルバードとフレデリックはわからないと思った。


 だが、ロジャーにはわかった。


「オスとメスの白鳥が互いに向き合い、くちばしの先をつけることがある。求愛行動、愛情を確かめる行為だと言われている。その時に二羽の白鳥の首がハートの形になる。そのことではないか?」

「それです!」


 ロジャーの予想通りだった。


「子どもの時に湖へ遊びに行って、白鳥の話を聞きました。恋人や夫婦の白鳥が口づけをするとハートの形になるので、愛の鳥だと教わりました!」

「そうでしたか。口づけを交わした白鳥たちがハートの形になるのであれば、確かに愛の鳥と言えますね」


 エゼルバードの機嫌が上向いた。


「馬車に白鳥を取り入れましょう」

「では、内装を白に。白鳥のイメージや意匠をあしらうということでよろしいでしょうか?」


 ミラードが確認した。


「外装は黒の方がいいのではないか? 黒鳥もいる」


 ロジャーが現実的な提案をした。


 エゼルバードは意図が明らかすぎるために眉をひそめたが、リーナは嬉しそうな表情になった。


「白鳥姫と黒鳥姫ですね!」


 白鳥姫と黒鳥姫というのは、『白鳥姫と金の王子』という物語に登場する人物のことだった。


 バレエやオペラの題材にもされているために、非常に有名でもある。


「リーナはバレエを見たことがあるのですか?」

「子どもの頃に絵本を見ました。屋敷の側に湖があったので、白鳥姫がいないか探しに行ったこともあります」

「白鳥ではなく白鳥姫を探しに行ったのか」


 フレデリックは笑ってしまった。


「とても愛らしい行動ですね。純粋さのあらわれでしょう。白鳥姫と金の王子の世界観を馬車に取り入れるといいかもしれません」


 エゼルバードは少し考えると、ミラードに視線を向けた。


「紙を」

「はい!」


 エゼルバードはロジャーを通して受け取った紙に、ポケットから取り出したペンを走らせた。


「外観はこのような感じで」


 エゼルバードが絵を描いたことで、どのような馬車にしたいのかがはっきりとわかるようになった。


「内装はより細かく描きました。どうですか?」

「すごいです……この紙に描かれた全てからエゼルバード様がお考えになった馬車の特別さが伝わってきます!」


 リーナは絵だけでなく走り書きのような文字にも美しさを感じていた。


「それにハートもあります!」


 エゼルバードが描いた車内の絵には、特徴的な装飾が施されていた。


 座席の背もたれの上にあるのは二羽の白鳥。


 向かい合いながら口づけを交わしており、その首の形がハートになっていた。


「内装は湖畔のイメージです。座席は水色、床は青。色で湖の深さをあらわします。水草の模様が描かれた絨毯がいいでしょう。背もたれには二羽の白鳥。向かい側にはくつろげるような湖畔の景色。天井には太陽をあらわす小ぶりのシャンデリア。カーテンは緑。木々をあらわしています」


 エゼルバードは湖畔の情景を馬車に再現し、白鳥によって愛を感じられるような内装にすることを思いついた。


「外装は黒鳥をイメージにしているので、扉の部分が翼のようなデザインになっています。黒鳥のくちばしは赤いので、御者席に赤を取り入れました。内装を重視するため、外装はこの程度でいいでしょう。長距離用ですので、箱馬車で構いません。安全を優先します」


 四角い箱馬車に落ち着いたことに、ミラードは大安心した。


「そろそろ時間だ」


 ロジャーは時計を見て時刻を確認した。


 午後はお茶会があるため、馬車屋に長居することはできなかった。


「第二王子殿下が描かれた絵は極めて貴重かつ価値がある。その紙に直に触れることができるのは責任者のみだ。のちほど回収するため、それまでに内容やデザインを模写しておけ」

「エゼルバードの描いたものは国宝級だ。軽々しく扱うことは許されない」


 フレデリックもエゼルバードが自ら描いたものがいかに貴重かつ重要なものかを知っているため、厳重に取り扱うよう指示をした。


「かしこまりました。国宝級の美術品として扱います」


 王族の威厳を感じさせる重々しい口調に、ミラードたちは深々と頭を下げた。


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