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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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283 白鳥



「お待たせいたしました」


 ミラードがデザイナーと一緒に戻って来た。


「先ほどの要望をデザイン画にしてみました」


 身分差を考慮してロジャーがデザイン画を受け取り、ロジャーからエゼルバードにデザイン画が渡された。


 エゼルバードは軽く目を通すとリーナにデザイン画を渡した。


「この絵を見た感想を言いなさい。嗜好に合わないということでも構いません」


 どれも白馬が白い馬車を引いているような構図だった。


「馬も白いです」

「馬車に合わせました」


 ミラードが答えた。


「わかりますけれど、馬車を引く馬は一頭ではありません。長距離を移動するために、たくさんの白馬を揃えるのは大変そうです」

「リーナの着眼点は面白いですね」


 馬車ではなく馬に対する指摘だったことにエゼルバードは驚いた。


「車体の装飾が控え目です。絵として見た場合はいいと思うのですが、実際には全然見えない気がします」

「全然見えない?」

「ミレニアスへ来る途中、移動予定が遅れているということで速度を上げていました。馬車を見る人々は色や速度のことを考えます。目立つような装飾でないと全く注目されず、印象にも残りません」

「ああ……なるほど」


 またしてもリーナはエゼルバードが考えつかなかった点を指摘した。


 街中では道幅や他の馬車のせいで速度を出しにくい。そのために馬車の装飾が見えやすくなる。


 しかし、長距離馬車では事情が異なる。


 遠目に目撃すれば色程度しかわからない。


 近くであっても移動する速度次第では装飾などの特徴がわかりにくい。


 特別な馬車だと認識させたいのであれば、遠目でも速度が出ていてもわかるような特徴のある馬車にしなければならないということだった。


「別にいいだろう? 長距離用の馬車は強盗に狙われにくくするために装飾を抑えることもある」


 フレデリックは長距離用の馬車だからこそ、派手な装飾は必要ないと思った。


「白い馬車というだけで十分目立つ」

「白いだけでは特別な馬車とは言えません。私が満足するとでも?」

「俺にも見せろ」


 リーナはすぐにデザイン画をフレデリックに渡した。


「どれもこれもありきたりな白い馬車だ。もっと特別な感じがするものがいい」

「王太子殿下はどのようなデザインが良いと思われるのでしょうか?」


 ミラードが尋ねた。


「俺はデザイナーではない! 考えるのはお前たちの仕事だろうが!」

「デザインのヒントとなるようなことがあれば教えていただきたいのですが?」

「勝手に考えろ!」


 ミラードたちは明らかに困った表情をした。


 リーナは力になってあげたいと感じた。


「あの」


 全員の視線がリーナに集まった。


「エゼルバード様の後援会は白鳥会だとお聞きしました。ですので、白鳥の形をした馬車はいかがでしょうか?」


 リーナの提案に全員が唖然とした。


 理由はわかりやすい。


 だが、馬車の形を白鳥にするというのは前代未聞だった。


「馬鹿を言うな!」


 フレデリックが怒鳴った。


「馬が巨大な白鳥を引いていたらおかしいだろう! 装飾に白鳥の姿を意匠として取り入れるのはわかるが、馬車の形を白鳥にするのは変だ!」

「フレディは落ち着きなさい。白鳥の優美な姿を馬車にしたいと考えるのはおかしいことではありません。個人の嗜好や感覚に差があるだけの話です」


 エゼルバードは呆れながら注意した。


「ですが、デザインを取り入れるとすれば船の方でしょう。湖の上に浮かぶ白鳥の姿を、船にしてみるという発想です」

「ああ、確かに。それはあるな……」


 馬車と聞いてありえないと感じたフレデリックだったが、船のデザインやモチーフなどに白鳥が取り入れられていることを思い出した。


「白鳥にするかどうかはともかくとして、馬車の形を何か特別なものにするという考えは悪くありません」

「奇抜過ぎる形は止めてほしい。強度が低くなると安全性に関わる。土産として贈れない」

「では、私に平凡な馬車を贈るというのですか?」

「見た目も内装も豪華な馬車にすればいいだけだろう?」

「わかっていません。王族の私にとって豪華な馬車は当たり前ではありませんか。それこそがまさに平凡なのです」

「地味な馬車の方が特別だということか?」

「私がほしいのは美しく特別な馬車です」

「エゼルバードの美意識は高い。合わせるのは難しい」

「フレディは芸術音痴ですからね」


 フレデリックは眉間にしわを寄せた。


「普通なだけだ。エゼルバードが高過ぎるだけだ!」

「意見を述べる許可がほしい」


 エゼルバードとフレデリックの雰囲気が悪くなるのを防ぐため、ロジャーが口を開いた。


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