282 大切な証拠
「リーナは白い色が好きなはず。白い馬車がいいのでは?」
エゼルバードはリーナが考えやすいように質問した。
「白いのはちょっと……汚れが目立ちそうなので別の色がいいです」
「常に綺麗にしていればおけばいいではありませんか。そうすれば、汚れが目立つ色かどうかは関係ありません」
「でも、突然の雨や強風のせいで汚れてしまうかもしれません」
「雨で濡れたとしても、汚れるとは思えませんが?」
「水溜まりが跳ねると下の部分が汚れます。舗装されていない道は酷いです。泥だらけになりますが?」
エゼルバードが馬車に乗るのはしっかりと整備された場所で、基本的には石で舗装されている。
そのせいで舗装されていない道を馬車が通るとどうなるかという考えがなかった。
「……確かにそうですね」
ミレニアスからエルグラードに戻るために通る道の多くは舗装されていない。
白い馬車ではすぐに土埃や泥の跳ね跡がついてしまうことにエゼルバードは気づいた。
「リーナの方が実用性を重視した馬車を思いつきそうです。他に何かありませんか?」
「馬車についてですか?」
「そうです。どんな馬車がいいかという案です」
「内装はもっと落ち着いた感じのものがいいです。長い時間乗ることを考えると、緊張しそうな内装ではない方がいいです」
「それから?」
「螺鈿のテーブルは素敵です。もし好きなテーブルにできるなら、このようなテーブルでバラの模様にしたいです」
エゼルバードは兄から贈られた薬入れを思い出し、ポケットから取り出した。
「このようなものですか?」
「そうです! 私もそれと同じものをいただきました」
リーナはポケットから螺鈿細工の薬入れを取り出した。
「リーナも持っているのですか?」
「はい。レールスで王太子殿下と外出した時にいただきました」
「そうでしたか」
エゼルバードは兄弟だけで揃えた品だと思っていた。
しかし、実際にはリーナにも贈っていたことをエゼルバードは知った。
「私もリーナも、兄上にとても大切にされています。この薬入れはその証拠です」
「光栄ですし、とても幸せなことです。美しく輝くバラを見ると、王太子殿下の優しさとエルグラードを感じられます」
リーナはクオンからもらった薬入れを愛情深い眼差しで見つめた。





