281 どんな馬車?
商談用の個室として使われる長距離用の馬車は黒い車体に金の装飾が施されたもので、全体的には貴族用の馬車といった印象だったが、内装はかなりの豪華さだった。
「金ぴかです」
黄金色の装飾とそれに合わせた黄色い内装のせいで、馬車内が眩しいとリーナは感じた。
「黄金の馬車を思い出します」
「色合いとしては似ているかもしれませんが、同じではありません。こちらは全てを黄金色にしなくても、黄金の内装と呼べるようにできることを示しております」
エゼルバードたちが着席すると、ミラードは折りたたまれているテーブルを引き出した。
「螺鈿です!」
テーブルの天板が螺鈿細工でになっているのを見て、リーナは驚いた。
「大理石の薄い板よりもこちらの方が圧倒的に軽く、象嵌細工よりも華やかな輝きを楽しめます」
「傷つきやすいのでは?」
テーブルの天板は物を置くために利用頻度が高い。
耐久性に問題がないのかどうか、エゼルバードは気になった。
「上から保護塗料を厚めに塗っております。丁寧に扱えば問題はなく、現時点でのご利用においてはすぐに割れてしまったなどの報告はありません。螺鈿のデザインはお好きなものに変更できますので、バラにもできます」
見本としての螺鈿細工はミレニアスらしいチューリップのデザインになっていた。
「どんな馬車がいい? 大まかなイメージや要望を教えてほしい」
フレデリックがエゼルバードを見て尋ねた。
「白い馬車がいいですね。すぐに私の馬車だとわかるような美しさがあり、独特なデザインをしているものです。国章や紋章は必要ありません。ゆったりとくつろげる広さがあり、定員は四人以上。帰国日数を考慮すると、横になって休めるような座席がいいですね」
エゼルバードの色は白ということで、白い馬車がいいとした。
しかし、馬車屋としては最もクレームが入りやすい色で、避けたい色でもあった。
「全体を白にするのではなく、上部や装飾として白を使用するという方法もございますが?」
「白い馬車がいいのです」
「白の馬車にしろ。エゼルバードが言った通りにすればいい。余計なことは考えるな」
「かしこまりました」
「ミレニアスの馬車の特徴は内装に力を入れていることだ。年々、改良している。螺鈿のテーブルは良い例だろう」
エゼルバード、フレデリック、ミラードで話し合いが進んでいく。
リーナはエゼルバードの隣に座り、全員の話を聞くだけの状態だった。
「少々お待ちください」
大体の希望を聞いたミラードたちが一旦席を外すと、エゼルバードはリーナに顔を向けた。
「退屈ですか?」
「どのように馬車を注文するのかがわかりました」
店の中にある馬車から選んで買うと思っていたリーナだったが、そうではなかった。
自分好みの馬車にするために、細かい要望を伝えて作ることがわかった。
「リーナが馬車を注文するような機会はないかもしれませんが、どのような馬車がいいですか?」
「私は馬車に乗れるだけで十分です。どのような馬車でもいいです」
リーナらしい謙虚な答えだとエゼルバードは思った。
だが、フレデリックは不満だった。
「何でもいいというのはどうでもいいということだ。興味がない。相手の質問にしっかりと答えていないと思われる。もっとよく考えて答えろ」
リーナはどんな馬車がいいかを考えてみた。





