274 独特の考え
「この宝飾品をデザインした者は誰ですか?」
宝飾品をデザインした者が、エゼルバードの不興を買ったのは明らかだった。
「この店で抱えているデザイナーか?」
フレデリックも質問した。
「マグーラ・サルヴァータ様です」
その名前を聞いた瞬間、エゼルバードは嫌そうに顔を歪め、フレデリックは舌打ちした。
「マグでしたか。私の趣向を理解できていないのは当然ですね」
「小銭が入ると言っていたのは、この宝飾品のデザイン料だったのかもしれない」
「お知り合いの方なのでしょうか?」
リーナが尋ねた。
「ミレニアスでは有名な女性ですが、私とはかなり違う感覚を持っています。芸術的センスに関しては特に」
「チューリップの葉の宝飾品は扱うな。マグのデザインしたものも同じく。でなければ、王家御用達から外す」
「かしこまりました」
宝飾品店の者は深々と頭を下げた。
「ここで買い物をする気はありません。他に行きましょう」
「わかった」
エゼルバードの機嫌を直すべく、フレデリックはすぐに別の店に行くことに同意した。
二件目はフレデリックが個人的に御用達にしている宝飾品店だった。
男性用の宝飾品をメインに扱っているが、女性への贈り物にする宝飾品も揃えている。
ここでも定番のチューリップのデザインを取り入れた宝飾品が多くあった。
「リーナはどれがほしいですか?」
「素敵なものばかりだと思いますが、あまりにも豪華すぎて……」
不幸な境遇だったリーナは宝飾品について勉強不足。感性を磨くのもこれから。
エゼルバードは自分がリーナを導かなくてはと思っていた。
「宝飾品を購入する時に最も考慮すべきことは何だと思いますか?」
「デザインでしょうか?」
金額で選ぶと言えば間違いなく駄目出しされるとリーナは思った。
「違います。自分が気に入るかどうかです」
何かを選ぶ時、人によってその理由、基準、価値観は異なる。
エゼルバードが何よりも重視すべきだと思うのは、自分の気持ちだった。
「ほんの少しでも気になるものはないのですか?」
「チューリップの宝飾品が沢山あることが気になります。でも、それだけでは決めにくいと思いました」
「では、別の考え方をしてみましょう。好きな色は白でしたね」
「はい」
「金と銀ではどちらが好きですか?」
「金です」
「どうして金が好きなのですか?」
「金も銀も美しいのですが、銀はずっと放置していると黒ずんでしまいます。お手入れが大変ですけれど、金はお手入れが楽です。ずっと美しく輝いている金が好きです」
……リーナの考え方独特ですね。
金も銀も美しい。だが、その美しさを守りやすく、輝きが失せないかどうかで比較した。
その結果、金が好きという答えになった。
エゼルバードは宝飾品の手入れをすることはないため、リーナのように手入れがしやすいかどうかで判断することはない。
とはいえ、いつまでも美しい輝きを放つものがいいというのは理解できる。
エゼルバードはリーナの答えに納得した。
「白い宝石の一つにオパールがあります。リーナは虹色の花のことを教えてくれましたね? オパールにも虹色の輝きがあります。オパールの装飾品を用意しなさい。台座は金がいいですが、なければプラチナでも構いません」
「すぐにご用意いたします!」
店員たちが素早く動き出し、次々とオパールの宝飾品を運んで来た。





