273 宝飾品店
まずは宝飾品店へ向かうことになった。
今後の予定は会談次第で変更になる可能性がある。
自由時間が取れなくなることを考えた結果、土産物の購入を優先することになった。
最も豊富に取り揃えてあったのは、チューリップのデザインだった。
「ミレニアスの国花はチューリップ。王家の花でもあります」
国や王家に関わるような行事には、必ずチューリップに関係する宝飾品を身に着ける。
昔は生花を髪や胸元などに飾るような風習だったが、生花は枯れてしまう。
そこで枯れない花、宝飾品のチューリップをつけるようになったことをエゼルバードが説明した。
「エゼルバード様はとても物知りなのですね」
「短期間ですが、ミレニアスに留学していたことがあるのです。フレディはどれがいいと思いますか?」
「ここにあるのは特別に製作された一点物ばかりだ。王族用でもおかしくない。そうだな?」
「はい。仰せの通りでございます」
フレデリックの言葉に、店の責任者はうやうやしく同意を示した。
「どれも特別な宝飾品でございますが、最新の流行は花弁の部分が二色のチューリップです」
これまでは花弁に配置される宝石が一色だけだったが、二色使われるようになった。
「一部で絶賛されているのがチューリップの葉を模したデザインです。通常は花がデザインされるのですが、あえて花ではなく葉に着目したデザインです」
「チューリップの葉に着目するという発想が独創的です。とても珍しいです」
リーナはチューリップの葉がデザインされた宝飾品に興味を示した。
「王太子殿下の護衛騎士の制服には、チューリップの葉のデザインが取り入れられています。そのことにインスピレーションを受け、生まれたのが葉のデザインの宝飾品です」
エゼルバードはたちまち不機嫌な表情になった。
「葉のデザインの宝飾品はやめなさい」
「エゼルバード様は葉よりも花のデザインの方がお好みですか?」
「植物の葉をデザインに取り入れること自体は問題ありません。ですが、フレディの護衛騎士の制服からインスピレーションを受けたというのが気に入りません。あれは剣だというのに、女性用の装飾品に取り入れるとは」
「剣?」
リーナはわからないと感じ、フレデリックに同行した護衛騎士に視線を向けた。
緑色を基調にした制服で、同色の短いマントをつけている。
細長い金の刺繍があり、それがチューリップの葉をあらわしているのだろうとリーナは思った。
「あの制服をデザインしたのは私です。留学した際、フレディの誕生日祝いとして贈ったのです。フレディはそれをとても気に入り、本当にそのデザインの制服を作らせました」
「制服目当てで俺の護衛騎士になりたいと希望する者が増えた」
フレデリックはエゼルバードがデザインした制服をとても気に入っていた。
「チューリップの葉をデザインとして取り入れたのは、剣をあらわすためです。騎士は剣を捧げて忠誠を誓うので象徴的だと思いました」
ところが、女性のための装飾品にチューリップの葉のデザインを取り入れている。
男性的かつ武器を象徴するものとしたエゼルバードの解釈を理解していないか、無視していることになる。
チューリップの葉という部分だけしか見ていない状態で騎士の制服からインスピレーションを受けたと言われるのは、エゼルバードにとって不愉快でしかなかった。
「私の趣向を理解しない者が勝手に流用している宝飾品ではありませんか。護衛騎士の制服からインスピレーションを受けたという説明は許されません。非常に無礼です!」
店員の表情が青ざめた。
問題が起きないようにしろと言ったというのに!
フレデリックはすぐにでもチューリップの葉の宝飾品とそれをデザインした者を抹殺したい気分になった。





