268 歓迎の舞踏会(三)
「堅苦しくする必要はない。どうせ会う機会はほとんどない」
フレデリックがそう言った時だった。
「兄上、姉上、またお会いできて嬉しいです」
フェリックスが輝くような笑顔を見せながらやって来た。
「フレディがいとこたちに紹介すると聞いたので、僕の友人も紹介しようと思って連れて来ました。ローワガルン大公子のルーシェです」
フェリックスは自分よりも年上の少年を友人として紹介した。
「ローワガルンのルーシェです。よろしく」
ルーシェは控えめな笑みを浮かべながら、パスカルに視線を移した。
「ローワガルンでもレーベルオード伯爵家は有名です」
「ローワガルン大公子にご挨拶申し上げます。私はパスカル・レーベルオード、妹のリーナです」
「フェリックスの兄君に会えて嬉しいです」
「ルーシェは僕が在籍するミレニアス王立大学に留学中です。一緒にエルグラードに留学するかどうかを話し合っています」
「もしエルグラードへの留学話が具体的に進むようであれば、必ず外務省の方にご連絡ください」
「キフェラ王女は現在エルグラードに留学中です。王宮に滞在していると聞いているのですが、僕が留学する場合も王宮に滞在できるのでしょうか?」
王宮? 後宮だけど?
リーナはそう思いながらパスカルの方を見た。
「他国の王族が留学される場合、エルグラードの王宮に滞在しながら学校へ通うことはありません。キフェラ王女が滞在されているのは王宮ではありません。王宮地区内にある建物です」
パスカルは王宮ではないことを強調しながら説明した。
「なるほど。王宮ではないのですね。恐らく、キフェラ王女の名誉を守るために誰かが王宮だと言ったのでしょう。ですが、事実と異なるのは困りますね。多くの者が勘違いしてしまいます」
ルーシェはニヤリと笑った。
「ミレニアスとしてはエルグラードとの縁談をまとめたいはずです。その期待があらわれているのかもしれません」
王宮に住むことができるのは王家の者。
キフェラ王女がエルグラードの王宮に住んでいるのであれば、それはエルグラード王家に迎えられる証。
将来的に縁談が正式に調うだろうと期待する人々が多くなり、ミレニアス王への支持が強まる。
いかにもミレニアスらしいやり方だとパスカルは思った。
「詳しくは外務省の者とご相談ください。私は王太子府に所属しており、留学に関することは担当外です。基本的なことはわかりますが、守秘義務の関係上お話できないこともあります」
「セイフリード王子に会いに行きましょう。僕の代わりに仲良くなってくれると嬉しいですね。同じ大学生として親しくしようと思ったのですが、見た目が子どもなので難しいようです」
「確かに見た目は子どもだね。中身は全然違うけれど」
「ルーシェは僕を子ども扱いしません」
「当たり前だ。僕より年下なのに、成績は僕より上だからね。フェリックスは大事な友人だよ。冗談を言えるのはその証拠だ。黙っていればとても可愛いし、弟のようにも思っているよ」
「兄役は不要です。僕にはとても優秀な兄がいます」
「いつもこうだ。レーベルオード子爵のことを自慢げに話しているよ」
ルーシェは苦笑した。
「セイフリード王子のところに行こうか。フェリックスのためにも留学のためにも仲良くなれるか試してみる」
「手強いので覚悟してください。性格の悪さはかなりのものです」
「フェリックスと同類か。だったら逆に大丈夫かもしれないね」
「ルーシェとセイフリード王子がどんな風に会話をするのか楽しみです」
「では、僕とフェリックスはこれで」
ルーシェとフェリックスはセイフリードに会うべく、その場を離れて行った。
「リーナ、今夜は退出するまでここにいろ」
フレデリックが言った。
「国賓用の場所よりも王族用の場所の方が近づきにくい。いとこたちは無視していい」
フレデリックがリーナを王族用の場所に連れて来たのは、リーナの近くに集まる人々に対応する煩わしさをなくすための配慮だった。
「お兄様」
「ご配慮いただきありがとうございます。ですが、長居していると目立ってしまうのではないでしょうか?」
パスカルはやんわりと目立ちたくないことを伝えた。
「問題ない。ここで人気があるのはレーベルオード子爵の方だ。いとこたちの相手をしてやってくれ」
フレデリックはニヤリとした。
「妹ために兄が盾になるのは当然だろう?」
「わかりました」
「これでパスカルとたっぷりと話せる」
「逃がさないからな?」
アルヴァレス大公子たちがにこやかな笑顔を浮かべた。





