260 最高の兄
「明日の話をする。王都に向かう馬車の割り振りが決まった。リーナとメイベルは第三馬車だ」
組ごとに振られていた馬車番号が見直され、全体を通した馬車番号に変更された。
第一馬車は王族用、第二馬車は側近用、第三馬車が女性用になったことが伝えられた。
また、早朝出発だけに、馬車の中で休みやすくなるような変更もあった。
「午前中にはミレニアスの王都チューリフに到着する」
到着後は歓迎式典がある。
王族と側近はミレニアス王主催の昼食会に出席。
リーナは側近扱いだが、出国後の人事変更であることや女性であることが考慮され、昼食会への出席はない。
また、午後の歓待行事にも、リーナやメイベルが出席するものはないため、部屋で留守番をしながら荷物整理を行うことが伝えられた。
「夜に開催される舞踏会については貴族として出席する。正装だけに、女性はティアラを着用すること。リーナのエスコートは僕が務める。メイベルのエスコートはエンゲルカーム卿だ」
メイベルは驚きの表情になった。
「夫が来ているのですか?」
「急使として先ほど到着した。随行員として加わる」
「そうでしたか」
「急使はもう一人いる。ディヴァレー伯爵だ」
「ディヴァレー伯爵ですか?」
つまりはセブン・ウェストランド。
メイベルは夫が到着したと聞いた時よりもさらに驚くような表情になった。
「王太子殿下が不機嫌にならないよう軽率な行動は控えてほしい。ディヴァレー伯爵は一行に加わらない。リーナが部屋から出なければ、会うことはないはずだ。部屋まで尋ねて来ても、追い返すよう護衛騎士の者に伝えてある」
「わかりました」
メイベルはしっかりと頷いた。
だが、なぜディヴァレー伯爵を警戒するような説明があるのか、全くわからなかった。
「リーナ、前に言ったことを覚えている?」
パスカルに問われたリーナは、どのことだろうかと思った。
「どのようなことでしょうか?」
「セブン・ウェストランドは死神と言われている。近づく女性は不幸になる。だから、絶対に近づかないように」
以前、そんな話を聞いたかもしれないとリーナは思った。
「それから僕のことは兄と呼んでくれないかな? でないとよそよそしく感じられる。養女として軽視されないためにも必要なことだ。表向きには言えないけれど、僕とリーナは血のつながった兄妹だ。家族として接してほしい」
「わかりました。お兄様」
パスカルは嬉しそうに微笑んだ。
「とても嬉しいよ。ずっと妹に会いたいと思っていた。それが叶ったことを実感できるよ」
「私も嬉しいです。家族に会えるだけでもすごいことなのに、お兄様がいることもわかりました。とても心強いです」
「兄としてリーナを守る。だから遠慮しなくていい。どんなことでも頼ってほしい。必ず力になるからね」
「はい」
麗しい兄妹愛。
しかし、多くの人々はリーナとパスカルが血のつながった兄妹とは知らない。
養女になったことで法的な兄妹になっただけだと思っている。
パスカル様は女性に人気があるから心配だわ……リーナが嫉妬されてしまいそう。
仲が良いからこそ発生しそうな問題をメイベルは懸念していたが、パスカルがリーナにとって最高の兄であることは疑いようもなかった。





