252 ロジャーの案
夕食後、クオンはロジャーと会っていた。
「エゼルバード王子のことなのですが」
クオンは心の中でそっちかと思った。
てっきりミレニアスの王兄と会うための手配に関することかと思っていた。
「明日は王太子殿下の馬車にエゼルバード王子だけでも同乗させていただけないでしょうか?」
「チューリフに着くと忙しくなる。今のうちにリーナとの時間を確保しておきたい」
「そうそう。王太子のデートを邪魔するのは良くないなあ」
同席していたヘンデルも口を挟む。
しかし、そう言われるのは承知の上。
ロジャーは退くつもりはなかった。
「このままでは王子たちの仲が険悪なものになってしまいます。兄弟仲が悪いことをミレニアスに知られるのはよくありません。王太子殿下がプライベートな時間を優先されたいのはわかりますが、ミレニアスに来たのは公務のためです。何卒ご理解いただけないでしょうか?」
クオンは顔をしかめた。
至極正論だが、わかったとも言いにくい。
「国境を越えたあとはチューリフに着くまで王太子殿下の馬車にエゼルバード王子を同乗させていただけるという約束でした。お忘れでしょうか?」
「検討するといっただけで確約ではないって言ったはずだよ」
ヘンデルが代わりに答えた。
「チューリフまではまだかかります。エゼルバード王子の性格を考えると、ずっと別の馬車というのは限界です。問題が起きるのをわかっていて放置するのと一緒では?」
クオンもヘンデルも内心大きなため息をついた。
「今日はヴィルスラウン伯爵とエンゲルカーム夫人に質問することで時間を消費しましたが、チューリフまで同じ手は使えません。二人の負担も大きいはずです」
ヘンデルは頷きたい気持ちに耐えた。
「お願い申し上げただけでは無理かもしれないため、ご検討いただけそうな案を考えてきました」
「どのような案だ?」
「明日は天気が非常によくなりそうだということです。短時間だけでも馬に騎乗されてはいかがでしょうか? 馬車では味わえない開放感を味わえます。安全面についても、多くの護衛がいるために問題はないかと思われます」
クオンは考え込んだ。
「私が入手した情報によりますと、レーベルオード伯爵令嬢は幼少時にポニーに乗ったことがあるそうです。王太子殿下と一緒に馬に乗り、遠乗りのような気分を味わうのはいかがでしょうか?」
「ロジャーも大変だねえ」
確かにクオンが検討しそうな案だとヘンデルは思った。
「王太子殿下がプライベートな時間をレーベルオード伯爵令嬢と楽しみたいと思われていることはわかっています。ですが、女性と過ごすのは何かと大変です。相手の好む話題や良い雰囲気を作るのは簡単ではありません。お困りの際はエゼルバード王子に声をかけていただけないでしょうか? 高い社交技能によって王太子殿下のお心に叶うような対応をするでしょう」
「まあ一日ぐらいはそういうのもありかもね。馬車の中ばかりもどうかと思うし」
クオンは決断した。
「リーナが馬に乗ってもいいと思うようであればそうする。馬車で過ごしたいと思うようであれば馬車で過ごす。事前にリーナへの根回しはするな。わかったな?」
「御意」
「了解」
ロジャーとヘンデルは明日の予定について考えた。
王太子が馬に乗ろうと誘えば、リーナが拒否することは絶対にない!
馬に乗ってのデートは決定したのと同じだなあ……。
二人は護衛と警備の通達をしようと思った。
 





