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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
250/1357

250 トライバル



 トライバルの国営ホテルは、高級ホテルのような施設だった。


 クオンは最上級のスイートルームで、それ以外の者達は身分や階級に従って部屋を割り振られた。


 リーナの部屋は王族付き女官としての階級にふさわしいと思われる部屋という意味では問題なかったが、荷物については問題が起きていた。


「メイベルさん……」

「全部の荷物を降ろしてしまったみたいね」


 トライバルの国営ホテルには一泊しかしない。


 だというのに、大量の荷物が入った箱が部屋や廊下に運び込まれ、高く積み上げられていた。


「二箱だけあればよかったのに」


 チューリフまでは大街道沿いの都市や町に一泊しかしない。


 全ての荷物を積み下ろしてまた乗せるのは大変だと考え、一泊分の用意と何らかの事情によって正装する場合の箱を用意しておき、その二つだけ部屋に運んで貰えばいいようにしておいた。


 ところが、そのことがしっかりと伝わってなかった。


「全く持ってダメね。大きな箱を積み上げられたら、女性だけで中身を取り出せないこともわからないなんて!」

「男性の助けが必要です」

「護衛騎士に頼みましょう。ホテルの者を呼ぶより早いし」


 メイベルはすぐに廊下に行くと、リーナ付きの護衛騎士に声をかけた。


 しかし、護衛騎士は箱の積み下ろし作業を断った。


 護衛騎士の任務はあくまでも護衛。それ以外のことをすると任務を放棄していると思われてしまうためにできない。


 ホテルの者を呼んで対応させるのが筋だと言われた。


 確かにそうだと思ったメイベルはホテルの者を呼ぶための呼び鈴を鳴らすことにした。


 しかし、いつまで経っても誰も来ない。


「大勢の一団が到着したわけだし、ホテルの方も対応で忙しいのでしょうね」

「そんな気がします」

「まあ、夕食は部屋で食べるから着替える必要はないし、もう少し様子をみましょうか」

「そうですね」


 ところが、王太子からの伝令が来た。


「リーナ様に申し上げます。夕食は王太子殿下の招待により王族の方々とご同席することになりました。つきましては十八時までに身支度を整え、お部屋にてお待ちください。同席されるレーベルオード子爵が迎えに来ます。メイベル殿は自室での夕食となります。リーナ様に付き添う必要はありません」

「なんですって!」


 メイベルは慌てた様子で叫んだ。


「王太子殿下とのご夕食となれば着替えは必須です! ですが、箱を開けようにも積み上げられていてできません。ホテルの者も来ません。どうすればいいでしょうか?」

「廊下にいる護衛騎士に手伝わせればいいのでは?」

「先ほどご助力を頼みましたが、任務ではないと言われて断られました。ですが、リーナ様の身支度が整わなければこの部屋から出ることはできません。私からまたお願いしても断られてしまいそうなのですが?」

「では、私から護衛騎士に事情を伝え、手伝うように言います」

「ありがとうございます。お優しい方が伝令役で良かったですわ! 失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

「ハリソンです」

「ハリソン様ですね。リーナ様、王太子殿下の護衛騎士の中にも色々な方がいます。任務に忠実なあまり警護以外は受け付けない者もいますが、ハリソン様は事情を察してくださいました。優秀で優しい騎士のようです。リーナ様の担当ではなくてもお名前を覚えておくべきです!」

「ハリソン様、ありがとうございました」

「私への敬称は不要です。非公式であっても王太子殿下のご寵愛する女性に配慮するのは常識です。では、廊下にいるものたちに話してまいります」


 ハリソンを見送ったメイベルはドアを閉めた途端、ニヤリとした。


「うまくいったわ」

「急に必死そうな感じになったのでびっくりしました」


 メイベルは慌てふためく性格ではない。


 それだけにリーナはおかしいと感じながら様子を見ていた。


「第一王子騎士団にも色々な騎士がいるの。親切とは限らないわ。任務優先なのはわかるけれど、それ以外のことは何もしてくれないせいで困ることもあるでしょう?」

「そうですね」

「だから、夕食の席で箱を降ろしてくれた騎士の話をして、名前を言うの。王太子殿下はリーナにしっかりと配慮を示した騎士の名前を覚えると思うのよ」

「そうかもしれませんね」

「第一王子騎士団の者にとって、何よりも重要なのは王太子殿下に名前を覚えてもらうことのはず。夕食の席でのことは絶対に騎士にも伝わるわ。リーナに名前をアピールしてもらえるということで騎士たちの態度が親切になると思うのよ。どう?」

「どうと言われましても……夕食の席で話をするのは難しい気がします」

「無理に話す必要はないわ。とにかくできるようなら試してみて。それで親切な騎士が増えたら嬉しいし、ダメならダメで仕方がないというだけでしょう?」

「そうですね」


 リーナは頷いた。


「メイベルさんは意外と策士なのですね」

「この程度は策というほどのことではないわよ」


 ドアがノックされた。


 ハリソンだけでなく、廊下に待機していた護衛騎士たちも一緒だった。


「リーナ様、護衛を務める騎士にとって、護衛対象者に名前を覚えてもらうのは非常に重要です。ぜひこの者たちの名前を覚えてください。そうすれば緊急時に呼びやすくなり、騎士もまた駆け付けやすくなります」


 護衛騎士たちは順番に名乗った。


「では、荷物についてはこの者たちに。私は伝令の務めがありますので失礼します」


 ハリソンは一礼すると部屋を退出した。


「メイベルさん」

「わかっているわ」


 リーナに名前を覚えてもらえる機会だと言って、ハリソンは廊下にいる護衛騎士たちを説得した。


 それはつまり、ハリソンが優秀な騎士である証拠だった。


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