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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
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25 うろうろ

 後宮は商人や店から品を買い、購買部を通して住み込みの者に売る。


 購買部のおかげで、外出しにくくても買い物ができる。必要品や欲しいものを手に入れることができる。


 非常に便利であり、多種多様な品を扱っていた。


 リーナは購買部の中をうろうろしていた。


 何を買うか決めるために。


 いつもは買わなければいけない状況になって購買部に来る。


 何を買うかはすでに決まっており、一番安いものを探して買えばいい。


 今回は違う。欲しいものを買いに来た。


 何を買うかは自分次第だが、リーナには欲しいものがありすぎる。


 贅沢をしようと思えば、いくらでもできるのだ。


 とはいえ、いきなりあれもこれも全部買うようなことができる性格でもない。


 取りあえずは一つだけと思ったが、何を買えばいいのかわからない。


 商品を手に取ることもなく、ただ見るだけの状態だった。


「そこの召使い!」


 リーナは売り場にいる者、つまりは購買部の店員に声をかけられた。


「何でしょうか?」

「さっきからずっとうろうろしているわね。困っているの? それともウィンドウショッピング?」

「ウィンドウショッピングというのは何ですか?」


 リーナは尋ねた。


 窓を買う気はなく、窓も売っていないと思った。


「商品を見るだけで、買う気はないってこと。店の窓を眺めながら買い物について考えたり、買い物をした気分を味わったりするようなことをウィンドウショッピングと言うのよ」


 店員の説明を聞いてリーナは理解した。


「買う気はあるのですけど、何を買うか迷っています」

「自分用?」

「自分用です」

「好きなのを買えばいいでしょう?」


 リーナがずっとうろついていたため、店員はリーナを不審に思うと同時に苛ついてもいた。


「それが難しいのです。ずっと倹約していたので、いざ好きなものを買うとなるとどれにするか決めることができなくて……」

「何でもいいじゃないの」


 店員はじろりとリーナを見た。


「若いわね。何歳?」

「十八歳です」

「色々欲しい年頃ね」

「はい」

「おすすめはお菓子。一番手軽よ」

「確かにお手軽ですね」

「誕生日や自分へのご褒美なら特別な一品ね」


 ペン、アクセサリー、チャームの人気が高い。


「誕生日になると、チャームを一つ買って増やす者もいるわよ」

「チャームはあるのでいらないです」

「服を買えば? 私服か寝間着」

「休日はないので私服はいりません」

「寝間着は問題ないでしょう?」

「そうですね」

「見て来たら? ここにはしばらく来ないように。こっそり盗もうとしていると勘違いされたくなければ、別の売り場に行って」


 リーナは驚いた。


「盗むなんてしません!」

「時々そういうことをする者もいるから、念のために注意しないといけないのよ。何も買わないでうろうろする者達にはね。そして、別の売り場に行くようにうながす。これがマニュアルなの。取りあえず、寝間着を見に行って」

「そうします。ご助言ありがとうございました」


 リーナは深々と頭を下げた。


「他の売り場でもうろうろしすぎると、同じように注意されるわ。ある程度考えてから購買部に来た方がいいわよ」


 但し、売り場前の廊下を歩き回ったり、売り場を覗き込むように見るのは構わない。


 人探しかもしれないため、注意の対象にはならない。


「気を付けるのよ。わかった?」

「はい。ありがとうございます」


 リーナはもう一度深々と頭を下げると、寝間着を見に行くことにした。


 寝間着を見ていると、リーナはまた声をかけられた。


「ちょっといいかしら?」


 リーナは来たばかり。うろついてはいない。


 なぜ、店員に声をかけられたのだろうかと不思議に思った。


「寝間着が欲しいの?」

「なんとなく。買ったらどうかと薦められたので」

「今はどういうのを着ているの?」

「一番安いやつです。ここで買いました」

「古くなったの? それとも汚れたとか?」

「好きな物を買ってみようと思って」

「じゃあ、これはどう?」


 店員は次々と違う寝間着を見せ、商品に関する説明もしてくれた。


 リーナは親切な人だと思ったが、寝間着が欲しいわけではない。


 説明を聞いても買う気になれなかった。


「なんとなく、ちょっと違うというか……」

「無理には薦めないけど」


 店員はじろりと上から下までリーナを見つめた。


「成長していない?」

「え?」


 リーナは何を言われたのかわからなかった。


「何歳?」

「十八歳です」

「胸とかおしりとかウェストとか、お肉が増えてない?」


 リーナは成長の意味と場所を理解した。


「……増えています」

「成長期は体つきが変化するわ。服や下着のサイズを合わせないと駄目よ」


 服や下着が大き過ぎるのはともかく、きついのを我慢してはいけない。


 まだ着ることができる、大丈夫だと思っていると、体が成長しないばかりか体調不良の元にもなってしまうことを店員は説明した。


「以前、きつい下着を我慢していた女性が勤務中に倒れてしまったこともあるのよ。借金を増やしたくないのはわかるけれど、体調不良ばかりだと解雇になるかもしれないわ。困るでしょう?」

「困ります!」

「健康のためにも女性らしく成長するためにも、下着は絶対に我慢しないで。サイズにあったものを購入するのをお勧めするわ。念のため、サイズを測ってみましょうか。知らない間に意外と増えているものなのよ」


 リーナは店員に言われるがまま、試着室でサイズを測った。


 以前よりもかなり増えていた。


「寝間着じゃなくて下着を買った方がいいわ。これじゃきつすぎるわよ。特に胸が。おしりもいびつな形になってしまうわよ」

「いびつ!」


 リーナはショックを受けた。


「好きなものを買うのもいいけど、それよりも先に必要なものを買うこと。貴方には新しい下着が必要よ」

「そうですね。そうします」


 リーナは素直に頷いた。


 店員の言う通りだと思った。


「素敵な下着は沢山あるの。それこそため息がでるようなものもね。でも、貴方は召使いだし十八歳じゃお給料も少ないでしょう?」

「少ないです」

「好きなものを買うと言っていたわね。でも、こんな下着でずっと我慢していたことを考えると、かなり節約しているみたいね。偉いわ。でも、節約するところを間違っているわよ」

「そうだったみたいです」


 リーナは肩を落とした。


「下着を買うのは必須として、どんなものにする? レースのついた素敵な下着? それとも普通の? 地味な木綿? 色々あるわよ」

「一番安いやつにします」

「そうね。何枚も買わないとだし、最初は安いのでいいと思うわ」


 店員は頷いた。


「枚数が必要だし、また成長して買い換えないといけないかもだし。成長が止まってから素敵な下着を買うといいわよ。ずっと使えるでしょう?」

「そうですね」


 リーナは一番安い下着を購入した。


 自分の好きなものを買うつもりが、必要なものを買うことになってしまった。


 これでは好きなものを買えていない。


 好きなものを買うという覚悟を貫くため、リーナは菓子売り場に向かった。


 これは贅沢とは違う。借金を気にしないようにするための行動だと信じて。





 菓子売り場は非常に人気があり、いつも混んでいる。


 売り場によって販売時間が異なるが、食品売り場は二十四時まで営業する。


 王宮にある購買部の店は防犯上の理由から早く閉まってしまうため、夜間になると後宮にある購買部の客足がやや伸びる。


 すでに時刻は二十三時を過ぎていた。


 女性は早く部屋に戻りたいために急ぐ。一方、男性や警備の客が増える。


 リーナは早朝勤務をしていたこともあり、遅い時間に買い物をすることがなかった。


 男性が多くなるのにつれて女性の数がかなり減ってきたために焦った。


 何を選べばいいのかわからない。適当に買いたくもない。


 また明日来れば……。


 リーナは部屋に戻ることにした。


 その時、


「リーナ?」


 声をかけてきたのはパスカルだった。


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